レポート

2020年11月-Vol.294

まとめ

今月のポイント

今月3日、米国で大統領選挙が行われます。直近の世論調査(リアル・クリア・ポリティクス)をみると10月終盤にかけて若干差は縮小したものの、共和党のトランプ大統領に対し、民主党のバイデン候補が優勢を維持しています。もっとも、前回2016年の選挙でも民主党のヒラリー氏が優勢であったことや、いわゆる隠れトランプ支持者が多いこともあり、どちらが勝つか判らない状況です。通常であれば翌日には結果の大勢が判明しますが、当面の間、どちらの候補者も敗北を認めない展開も想定されます。今回はコロナ禍での選挙であるため、既に9,000万人超が期日前投票や郵便投票を行ったとの報道もあります。投票日以降に届いた投票用紙も有効とする州もあり、投票数の差が僅差であれば結果が確定するのに時間がかかる州もでてきます。また、3日に実際に投票する人は共和党支持者が多い一方で、既に郵便投票等を行った人は民主党支持者が多いため、3日の投票分を集計した段階でトランプ大統領が勝利宣言をし、郵便投票の集計を止めてしまうとの見方もあります。さらに、トランプ大統領が負けそうな事態となった場合は、不正の温床として郵便投票を無効化することも示唆しており、最終決着は法廷に委ねられる可能性も否めません。2000年の大統領選挙では連邦最高裁の判決までゴア氏の敗北宣言が出なかったので、選挙人の投票が行われる12月14日や、1月20日の大統領就任式までもつれるとの観測も出ています。加えて、熱烈な支持者による選挙妨害や選挙結果を巡る混乱が長期化すると暴力的な抗議デモが頻発することも想定されます。同時に行われる上院・下院の選挙結果がどうなるのか、また、上記のようなリスクシナリオが顕在化してしまうのか、行方が注目されます。

市場動向
国内債券 米大統領選挙後に予想される財政支出の拡大を受けた米国金利の上昇に連動し、国内金利にも上昇圧力が掛かると予想する。
国内株式 新型コロナウイルスの感染拡大、米国大統領選の行方など懸念材料はあるものの、第3次補正による景気対策への期待や日銀のETF買いなどから底堅い動きを予想する。
外国債券 <米国>大統領選挙後に予想される財政支出の拡大による景気の下支えと国債増発への警戒感から、金利には上昇圧力が掛かると予想する。
<欧州>新型コロナウイルスの感染再拡大による景気の下振れ懸念や英国との通商交渉の先行き不透明感に加えて、ECB(欧州中央銀行)による追加金融緩和の観測から、金利は低下すると予想する。
外国株式 <米国>どちらの大統領になろうとも、当面金融緩和の継続、積極的な財政支援が予想されることに加え、企業業績の改善期待が継続することで上昇を予想する。
<欧州>新型コロナウイルス感染者数の一段の拡大による再ロックダウンや夜間外出禁止などの経済活動制限への懸念から横這いを予想する。
為替市場 米財政赤字の拡大やFRB(連邦準備理事会)によるゼロ金利政策の長期化を受けて、対円でドルには下押し圧力が掛かりやすいと予想する。欧州各国での新型コロナウイルスの感染再拡大などが懸念であるものの、FRBによるゼロ金利政策の長期化を受けて、ユーロは対ドルで底堅く推移すると予想する。

ポイント

今月3日、米国で大統領選挙が行われます。直近の世論調査(リアル・クリア・ポリティクス)をみると10月終盤にかけて若干差は縮小したものの、共和党のトランプ大統領に対し、民主党のバイデン候補が優勢を維持しています。もっとも、前回2016年の選挙でも民主党のヒラリー氏が優勢であったことや、いわゆる隠れトランプ支持者が多いこともあり、どちらが勝つか判らない状況です。通常であれば翌日には結果の大勢が判明しますが、当面の間、どちらの候補者も敗北を認めない展開も想定されます。今回はコロナ禍での選挙であるため、既に9,000万人超が期日前投票や郵便投票を行ったとの報道もあります。投票日以降に届いた投票用紙も有効とする州もあり、投票数の差が僅差であれば結果が確定するのに時間がかかる州もでてきます。また、3日に実際に投票する人は共和党支持者が多い一方で、既に郵便投票等を行った人は民主党支持者が多いため、3日の投票分を集計した段階でトランプ大統領が勝利宣言をし、郵便投票の集計を止めてしまうとの見方もあります。さらに、トランプ大統領が負けそうな事態となった場合は、不正の温床として郵便投票を無効化することも示唆しており、最終決着は法廷に委ねられる可能性も否めません。2000年の大統領選挙では連邦最高裁の判決までゴア氏の敗北宣言が出なかったので、選挙人の投票が行われる12月14日や、1月20日の大統領就任式までもつれるとの観測も出ています。加えて、熱烈な支持者による選挙妨害や選挙結果を巡る混乱が長期化すると暴力的な抗議デモが頻発することも想定されます。同時に行われる上院・下院の選挙結果がどうなるのか、また、上記のようなリスクシナリオが顕在化してしまうのか、行方が注目されます。

今月の主なポイント
11/3 (米)大統領選・・・上記参照
11/5 (米)FOMC(4日~)・・・現状維持が見込まれる
11/16 (日)GDP速報(7-9月期)・・・コロナ禍前の水準にどの程度近づけるか
11月中 新型コロナウイルス感染拡大・・・経済活動の制限措置がどうなるか

国内債券

指標銘柄/新発10年国債
10月の国内債券市場

10月の債券市場は下落(金利は上昇)した。国内の相場材料に乏しい中、海外金利の動向に振れる展開となった。
10年国債利回りは、上旬に欧州での新型コロナウイルス感染再拡大や米国の追加経済対策を巡る与野党協議の難航などから一時0.015%まで低下した。その後は、米大統領選挙で優勢なバイデン候補による財政拡張や国債増発への警戒感の高まりを受けた米金利の上昇に連動し、国内金利も上昇基調で推移し、月末は0.035%で終了した。

イールドカーブは、超長期ゾーンの中でも25年を超えるゾーンの金利上昇幅が相対的に大きく、スティープ化した。信用スプレッドは、日銀による社債買入オペや投資家による良好な需要が支えとなり縮小した。

11月の国内債券市場

11月の債券市場は、下落すると予想する。米大統領選挙後に予想される財政支出の拡大を受けた米国金利の上昇に連動し、国内金利にも上昇圧力が掛かるだろう。但し、国内景気の持ち直しの動きが緩慢な中、第3次補正予算に伴う国債増発への過度な警戒感は後退しつつあることから、金利の上昇幅は限定的となろう。

11月の債券市場のポイントは、①米国の政治情勢、②新型コロナウイルスの感染再拡大の動向、③中央銀行の金融政策と考える。

①<米国の政治情勢>米大統領選では、世論調査で民主党のバイデン候補の優勢が伝えられる中、上下院も制して民主党によるトリプルブルー政権が誕生するとの予想が多い。一方、トランプ大統領が再選する可能性や、新大統領がスムーズに決まらない可能性もあるなど、大統領選をめぐる不透明感は依然強い。大統領選の展開次第では金融市場のボラティリティが高まる可能性があり、国内金利の変動幅が大きくなることには注意が必要である。

②<新型コロナウイルスの感染再拡大の動向>欧州で新型コロナウイルスの感染が急拡大する中、各国は経済活動の制限の強化に動くなど、景気減速が避けられない状況となっている。国内でも経済活動再開に伴う感染再拡大の動向には注意が必要な状況である。一方で、世界各国ではワクチンの開発が進んでおり、今後、臨床試験の動向等によっては、リスクオンムードが広がることもあるだろう。

③<中央銀行の金融政策>FRB(連邦準備理事会)がゼロ金利政策の長期化方針を示し、日銀も大規模な金融緩和策を当面維持する方針を示す中、新型コロナウイルスの感染急拡大に直面するECB(欧州中央銀行)の動向に注目が集まる。域内主要国の経済活動に制約が加わり、景気や物価のさらなる落ち込みが警戒される中、ラガルド総裁は次回会合での追加緩和を示唆している。追加緩和の有無や政策パッケージの中身を巡る思惑が市場に影響を与える可能性があるだろう。

イールドカーブは、小幅にスティープ化すると予想する。信用スプレッドは、緩やかな縮小を予想する。

国内株式

日経平均株価225種東証株価指数(TOPIX)
10月の国内株式市場

10月の株式市場は、欧米での新型コロナウイルス感染者数の急増により景気への影響が懸念されたことなどから、日経平均株価で0.90%の下落となった。

1日に東証のシステム障害で全銘柄の取引が停止となり、再開した翌日はトランプ大統領が新型コロナウイルスに感染したことで米政局の先行き不透明感から下落したが、その後は早期に退院となったことや米国で航空業界や中小企業への支援策などの報道があったことを受けて反発した。中旬以降は欧州での感染再拡大などを受けて軟調な局面はあったものの、米国の追加経済対策への期待などから高値圏での揉み合いの動きが続いたが、月末にかけては感染者数の急増によりフランス、ドイツなどで行動規制を強化する動きとなり、実体経済への影響が懸念されたことから下落した。

業種別には海運、保険、金属製品などが上昇し、医薬品、鉱業、陸運などが下落した。

11月の国内株式市場

グローバルでの新型コロナウイルス感染の拡大や米国大統領選の行方など懸念材料はあるものの、企業業績の回復に加え第3次補正予算による景気対策への期待や、日銀のETFの買いなどから底堅い動きを予想する。

政府は10月の月例経済報告で総括判断は据え置いたものの、個人消費の基調判断を「持ち直している」と表現し引き上げている。9月の連休ごろから需要喚起策「Go Toキャンペーン」の効果などにより上向き始めたと見ている。また、IMF(国際通貨基金)は、2020年の世界経済の見通しを景気指標の改善などから、前回(6月時点)に比べ0.8ポイント上方修正し▲4.4%としている。地域別では米国、ユーロ圏、日本や中国を引き上げる一方で、インドなど新興国は下方修正している。2021年は0.2ポイント引き下げて5.2%の成長としたが、感染を抑え込んでいる中国については8.2%と高い成長を見込んでいる。また、新型コロナウイルスの感染や治療薬・ワクチンの開発の動向次第で予測が変動することに言及していることは留意点だろう。

本格化している7-9月期決算は、鉄道、航空セクターの大手企業が巨額の赤字を計上しているものの、電機、OA機器、機械セクターの大手企業が相次いで通期のガイダンスを上方修正するなど全体的には回復感が強まってきている。欧州での新型コロナウイルスの急増に伴う行動規制の強化の動きは、回復を遅らせる要因だが、春先のロックダウンに比べると地域が限定的なことなどから、企業業績は緩やかながらも改善傾向が続くと見込んでいる。

リスク要因としては、①欧米での新型コロナウイルスの感染者数の急増が実体経済に与える影響、②米国大統領選の選挙結果の判明を巡る混乱の可能性、③米中関係の悪化が与える日本企業へのインパクト、などが挙げられる。

外国債券

米10年国債ドイツ10年国債
10月の米国債券市場

10月の米国の長期金利は上昇した。追加経済対策を巡る協議の進展期待や財政赤字の拡大に対する警戒から、金利には上昇圧力が掛かりやすい展開となった。下旬には、欧米での新型コロナウイルスの感染再拡大による景気の先行き不透明感を受けて、上昇幅を縮小する場面もあったが、月末に掛けては、米大統領選に対する警戒感などから再び上昇圧力が掛かり、0.80%台後半で終了した。

10月の欧州債券市場

10月の欧州(ドイツ)の長期金利は低下した。欧州各国での新型コロナウイルスの感染再拡大による景気の先行き不透明感を受けて、金利は低下基調で推移した。また、米国金利が上昇した流れが波及する場面もあったが、ドイツやフランスが新たなロックダウン措置を発表したことやECB(欧州中央銀行)への追加緩和期待を受けて上昇幅を縮小し、月末は▲0.60%台前半で終了した。周辺国国債とドイツ国債のスプレッドは概ね横這いとなった。

11月の米国債券市場

11月の米国の長期金利は、上昇を予想する。大統領選挙後に予想される財政支出の拡大による景気の下支えと国債増発への警戒感から、金利には上昇圧力が掛かると予想する。但し、新型コロナウイルスの感染再拡大による景気の先行き不透明感や、金利上昇時のFRB(連邦準備理事会)による国債買入れ期待から、金利上昇幅は限定的となろう。大統領選挙の混乱長期化から、金利の変動幅が大きくなる可能性には注意が必要である。

11月の欧州債券市場

11月の欧州(ドイツ)の長期金利は低下を予想する。新型コロナウイルスの感染再拡大による経済活動の制限措置を受けた景気の下振れ懸念や、英国との通商交渉の先行き不透明感に加えて、ECBによる追加金融緩和の観測から、金利は低下すると予想する。

外国株式

米国S&P500指数ダウ工業株30種平均ドイツDAX指数イギリスFT-SE(100種)指数香港ハンセン指数
10月の米国株式市場

10月の米国株式市場は、S&P500指数で2.77%の下落となり続落した。中旬までは、予想を上回る7-9月期の企業業績発表などが好感されて上昇した。その後、新型コロナウイルスの一段の感染拡大に加え、新型コロナウイルスワクチンに関するネガティブな報道が相次ぎ、また大統領選を控えて追加経済対策協議の停滞などが懸念されて売られた。セクターでは、公益、コミュニケーションサービスが買われた一方、情報技術、エネルギーなどを中心に売られた。

10月の欧州株式市場

10月の欧州株式市場は、米国市場の上昇や企業決算への期待などで中旬にかけて上昇したものの、欧州各国での新型コロナウイルスの一段の拡大や新型コロナウイルスワクチンに関する相次ぐネガティブ報道が懸念される中、ドイツ、フランスなどが再ロックダウンを発令したことで月末にかけて急落した。国別では、ドイツ、フィンランド、イタリアなどを中心に全ての国が下落した。セクターでは、情報技術、ヘルスケア、エネルギーなどを中心に全てのセクターが売られた。

10月の香港株式市場

10月の香港株式市場は、予想を上回った中国の経済指標や米国市場の上昇が好感され上昇した。アジアの新型コロナウイルス患者数の伸びは欧米との比較では抑えられていることもあり、5中全会(中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議)を控えて堅調な動きとなり、2.76%の上昇となった。

11月の米国株式市場

11月の米国株式市場は、11月3日の大統領選の結果が注目されるものの、どちらの大統領になろうとも当面、金融緩和の継続、積極的な財政支援が予想されることに加え、企業業績の改善期待が継続することで上昇を予想する。新型コロナウイルスの感染の更なる拡大による影響、大統領選の行方(大統領が決まらないリスク等)、米中対立の激化などが変動材料となろう。

11月の欧州株式市場

11月の欧州株式市場は、企業業績の改善が期待される一方で、新型コロナウイルス感染者数の一段の拡大による再ロックダウンや夜間外出禁止などによる経済活動制限への懸念から横這いを予想する。ユーロ高や英国のEU離脱を巡る動向なども変動材料となろう。

11月の香港株式市場

11月の香港株式市場は、米大統領選の状況は懸念されるものの、欧米との比較では、新型コロナウイルスの感染拡大は限定的で抑えられており、中国政府主導の財政・金融政策の下支えなどから米国市場並みの上昇となろう。

為替動向

為替(ドル/円)為替(ドル/ユーロ)為替(ユーロ/円)
10月のドル/円相場

10月のドル/円相場は、ドル安円高となった。ドル円は米追加経済対策を巡る協議を見据えながら上下し、下旬には欧米での新型コロナウイルスの感染再拡大による景気の先行き不透明感から弱含む展開となり、月末は104円台半ばとなった。

10月のユーロ/ドル相場

10月のユーロ/ドル相場は、ユーロ安ドル高となった。EUと英国の通商交渉の進展期待でユーロが買われ、1.18ドル台後半まで上昇する場面があったが、下旬には欧米での新型コロナウイルスの感染再拡大による景気の先行き不透明感から弱含む展開となり、月末は1.16ドル台半ばとなった。

10月のユーロ/円相場

10月のユーロ/円相場は、ユーロ安円高となった。ドルに対してユーロは下落、円は上昇したため、ユーロ安円高となり、月末は121円台後半となった。

11月のドル/円相場

11月のドル/円相場は、下落を予想する。ドル円は、米長期金利上昇による日米金利差の拡大がサポート材料となるものの、財政赤字の拡大やFRB(連邦準備理事会)による緩和的な金融政策の長期化から、弱含み基調が継続すると予想する。大統領選挙の混乱長期化によるドル安には注意が必要である。

11月のユーロ/ドル相場

11月のユーロ/ドル相場は、小幅な上昇を予想する。欧州での新型コロナウイルスの感染再拡大や英国との通商交渉に対する先行き不透明感はユーロの重しとなるものの、米国における金融緩和の長期化により、ユーロが相対的に選好され、底堅く推移すると予想する。但し、ECBによる追加緩和観測やユーロ高への牽制発言から、上値は限定的となるだろう。

11月のユーロ/円相場

11月のユーロ/円相場は、小幅の上昇を予想する。ドルは円・ユーロに対して弱含むが、ユーロに対する下落幅の方が大きくなるため、ユーロ/円は小幅の上昇を予想する。

虫眼鏡

『ジミー・バトラー ”I just take everything one day at a time.”』

突然ですが、ジミー・バトラー(Jimmy Butler Ⅲ)というバスケットボール選手をご存知でしょうか。日本ではあまり有名ではないので、ご存知でない方も多くいらっしゃるかと思います。
今回は、彼の知られざる人生について紹介させていただきます。
世界最高峰のプロバスケットボールリーグである、NBA(National Basketball Association)。
彼は、アメリカのフロリダ州にあるマイアミ・ヒートというチームで、今季凄まじい活躍をしています。
どれほどの活躍をしているのでしょうか。
このチームは、昨季レギュラーシーズン戦で39勝43敗であり、優勝どころか、その優勝を決めるプレーオフにも進出出来ないようなチームでした。このようなチームが、2020年10月12日現在、優勝を争うNBAファイナルまで進出しています。その原動力となったのが、ご紹介するジミー・バトラーなのです。

"I don't like the look of you. You gotta go."「あなたの見た目が嫌いなの。出て行って。」(拙訳)

幼少期、実の母親から言われた一言です。

彼は、なんと13歳で母親から家を追い出され、ホームレスとなります。彼は、ただただ生きるのに必死でした。父親もおらず、友人宅を転々としながら、なんとか持ちこたえていました。当時の記憶はほとんどないそうです。
そのような中、彼は「家族」と呼べる存在を見つけます。
ジョーダン・レスリー(Jordan Leslie)という友人と、バスケットボールを通じて親しくなりました。彼の母が、ジミーを「家族」として迎え入れたのです。ジミーの「母」は、彼に門限を定め、勉学に励むよう、厳しく育てました。つまり、愛情を持って接してくれたのです。

彼の「家族」のサポートもあり、高校生では、バスケットボールで結果を残し、その地区の優秀選手に選ばれました。
通常、高校生で結果を残した選手は、大学に奨学金制度を利用して進学しますが、彼には声がかからず、近くの短大に進学します。そこで着実に成長しました。
彼の努力の結果、やっと全米の一流大学から声がかかりました。その中で、彼はマーケット大学(Marquette University)への転入を決めました。この選択は「母」の助言によるもので、バスケットボールだけを長く続けることは出来ないから、ちゃんとした教育と学位が必要、という理由からでした。

そして、大学に進学した彼は、「父」を見つけます。マーケット大学のバスケットボール部コーチである、バズ・ウィリアムズ(Buzz Williams)です。
ジミーは、バズを父親のように感じていました。バスケットボールに対して非常に厳しく、一日一日を一生懸命過ごせ、と教えられました。
“His coach at Marquette, Buzz Williams, always told him to take everything one day at a time.”(原文)

ジミーは、転入当初ずっとベンチで過ごし、際立った成績を残せませんでした。
しかし、どれだけ厳しい練習でも、タフにこなしていた彼は、チームから認められ、試合に出られるようになりました。遂に大学3年目で、平均14.7ポイントの得点を稼ぎました。それだけでなく、様々なポジションでディフェンスが出来る汎用性も身に着けたのです。マーケット大は、全米一を決める大会であるNCAA(National Collegiate Athletic Association)トーナメントに出場しました。その出場を決定づける、ウィニングショットを放ったのが彼でした。

この結果がスカウトの目に留まり、2011年NBAドラフト全体30位で、シカゴ・ブルズから指名を受けました。
この順位は、決して高評価を受けていたわけではありません。通常、この指名順ではあまりプロとして大成するとは思われません。
それでも、周囲から、自分自身でさえ予想していなかった指名は、ジミーがバズから教えられた通り、

“I know I can overcome anything if I just take everything one day at a time."
「とにかく一日一日を一生懸命過ごしたら、どんなものでも乗り越えることが出来る。」(拙訳)
という言葉を表すものでしょう。

さて、指名を受け、晴れてNBAの仲間入りを果たしましたが、またしても順風満帆とは行きません。
プロ1年目は大学時代と同じようにずっとベンチにおり、ほとんど試合に出場できませんでした。2年目になると、チームの大黒柱が負傷のため出場できず、彼が代役を引き受けました。このような状況下で少しずつ結果を出し、平均8.6ポイントの得点成績を残しました。決してオフェンスは得意ではありませんでしたが、弛まぬ努力の賜物です。4年目になると、平均20.0ポイントの得点成績を残し、その年のオールスターに選ばれるほど、素晴らしい成長を遂げました。

その後、ジミーはチームの主力選手となり、3度の移籍を経て、プロ10年目のシーズンである今季、マイアミ・ヒートの所属となりました。

前述した通り、ヒートは決して強いチームではありませんでしたが、チームカルチャーとして、徹底的に努力する、という文化であり、彼とスタイルは似ていました。彼とチームが上手く融和し、レギュラーシーズンは、16チーム中5位という結果でした。前年と比べれば大きな進歩です。

しかし、快進撃はこれで終わりではありませんでした。

なんと、プレーオフにて、優勝候補筆頭であったミルウォーキー・バックスを破ったのです。大きな驚きでした。まさか前年の下位チームが優勝候補を圧倒するなど、誰が考えられるでしょうか。恐らく、選手本人たちだけでしょう。

そして、全米一を決める優勝決定戦である、プレーオフ・ファイナルに出場したのです。
シリーズ第3戦では、史上3人目となる、NBAファイナルにおける40得点以上かつトリプルダブルという獅子奮迅の活躍をしたのでした。
(注:トリプルダブルとは、1試合で1人の選手が得点、リバウンド、アシスト、スティール、ブロックショットの5つの成績項目の内、3つ(triple)で2桁(double)を記録すること。)

彼がチームに与えたインパクトは凄まじく、チームメイトから「ジミーのために優勝したい」と言われるほどでした。
しかし、6戦にも及ぶ激闘の末、結果は負けてしまいました。
とはいえ、彼のバスケットボール選手としてのキャリアはこれで終わりではありません。
どんなに困難な状況からも常に全力で努力し、結果を出してきた彼は、これからも、毎年優勝を狙えるチームの主役として活躍することでしょう。
きっと、彼はこのように言うはずです。

”I just take everything one day at a time.”
(参照)
https://www.espn.com/nba/draft2011/columns/story?columnist=ford_chad&page=Butler-110618