コラム

Vol.45

第25回目の今回は、SASBの「Engagement Guide Version2.0」より、「資源加工セクター(Resource Transformation Sector)」から「化学(Chemicals)」関連企業とのエンゲージメントテーマを取り上げます。

化学業界に属する企業は、有機原料や無機原料を7万以上の多様な製品に加工しており、そうした製品は、工業用、製薬用、農業用、住宅用、自動車用、消費者用の様々な用途に及んでいます。この業界は、通常、基礎化学品(コモディティ)、農業用化学品、特殊化学品に分類されます。生産量で最大のセグメントである基礎化学品には、バルクポリマー、石油化学製品、無機化学製品、その他の工業用化学製品が含まれます。農業用については、化学肥料、農薬および農業バイオテクノロジーなどが含まれます。特殊化学品については、塗料及びコーティング、農薬、シーリング材、接着剤、染料、工業用ガス、樹脂、触媒などが含まれます。化学大手は、基礎、農薬、特殊化学品を生産していますが、ほとんどの化学企業は専門分野に特化しています。化学企業は、一般的にグローバルに製品を製造及び販売をしています。

化学業界のエンゲージメントテーマは、「環境」「社会資本」「人的資本」「ビジネスモデルおよびイノベーション」「リーダーシップおよびガバナンス」「その他考慮事項」で構成されています。

「環境」に関しては、「温室効果ガス排出」、「大気汚染」、「エネルギー管理」、「水管理」、「有害廃棄物管理」をテーマとして掲げています。「温室効果ガス排出」については、「排出抑制の規制による企業への影響はどれくらいか?企業活動の地理的特質は、この分析にどのように考慮されているか?」、「スコープ1排出量を管理するための戦略はどのようなものか?そして、これまでの結果はどのようなものか?」という点に焦点を当てています。「大気汚染」については、「業界固有の汚染物質(NOx、SOx、VOCs、HAPs)の大気への排出に関連するリスク管理を企業はどのように行っているか?」という点を取り上げています。「エネルギー管理」については、「企業はどのようにエネルギー消費とそれに関連する価格および供給リスクを管理しているのか?」、「エネルギー効率を高め、企業のエネルギーミックスを管理する上で、どのような戦略が適切であるか?また、エネルギー戦略の一部として、グリッド電力(電線を伝って電力会社から送られる電力)の消費量を相殺するため、自家発電エネルギーまたは再生可能エネルギーをどのように、またどの程度使用しているのか?」という点についてエンゲージメントすることを求めています。「水管理」に関しては、「製造部門における水効率の向上と水利用の管理をどのように行っているのか?そして、企業が水を利用する際の主要なリスクとはどのようなものか?」、「特に水ストレスの地域において、水供給が途絶する可能性やコスト増加を最小限に抑えるため、どのような戦略を採用しているのか?」、「企業に適用される水質許可、基準および規制とはどのようなものか?そして、これらのガイドラインを遵守するため、どのような取組みを行っているのか?」という点に着目しています。「有害廃棄物管理」については、「有害廃棄物の主な発生源は何か?また、これらの廃棄物フローを削減する上で、どのような戦略が適切か?」という点を確認しています。

「社会資本」については、「地域社会との関係」をテーマとし、「事業を行っている地域社会との関係に関連するリスクと機会を管理するためのプロセスとはどのようなものか?」という点に着目しています。

「人的資本」では、「労働安全衛生」をテーマとし、「企業は従業員の安全衛生に関してどのような取組みを行っているか?そして、強固な安全文化をどのように推進しているのか?」、「どのような安全衛生上の危険要因が従業員に最大のリスクをもたらすのか?」、「従業員が影響を受ける健康リスクをどのように評価、監視、軽減しているのか?」という点に焦点を当てたエンゲージメントが求められています。

「ビジネスモデルおよびイノベーション」に関しては、「使用段階における効率性のための製品設計」と「化学物質の安全性と環境責任」、「遺伝子組み換え物質」をテーマに掲げています。「使用段階における効率性のための製品設計」については、「使用段階における資源効率を高める製品に関連する収益機会を捉える戦略はどのようなものか?」という点に焦点を当てています。「化学物質の安全性と環境責任」については、「製品が影響を受ける有害化学物質とはどのようなものか?そして、これらの有害化学物質をどのように管理しているのか?」、「環境および健康への潜在的な影響を削減することのできる代替品の開発についてどのような考えを持っているのか?」という点での対話を求めています。「遺伝子組み換え物質」に関しては、「遺伝子組み換え製品を使用することに対して、どのような経営戦略を掲げているのか?」という点でのエンゲージメントを求めています。

「リーダーシップおよびガバナンス」においては、「法規制環境の管理」と「事業活動における安全性、緊急時の対策および対応」をテーマと位置付けています。「法規制環境の管理」については、「社会及び環境問題に関連する政府の規制や政策提案に対してどのような影響を受けるのか?また、この影響が企業の目標や長期的なビジネスの持続性にどのよう作用するか?」という点が注目されています。「事業活動における安全性、緊急時の対策および対応」では、「正社員や契約社員の安全衛生を管理する上での最大の課題とは何か?そして、これらの課題はどのように運用されているのか?」、「輸送時における事故の防止策はどの程度効果を発揮しているのか?」という点がエンゲージメントの対象となっています。

「その他考慮事項」については、「報告対象となっているセグメントにおける生産量」を掲げています。