コラム

Vol.33

SASBの「Engagement Guide」のESGエンゲージメントを紹介する第13回目の今回は、「消費財Ⅱ(Consumption Ⅱ)」セクターから「Eコマース(E-Commerce)」関連企業とのエンゲージメントテーマを取り上げます。

比較的新しく、かつ急速に進化している業界であるEコマースは、消費者が、物理的・電子的な財・サービスに対して手頃な価格で便利なアクセスを求めるに従い、社会においてますます重要な役割を果たしています。Eコマース業界における付加価値のかなりの部分は、本来であれば実店舗から商品を取り寄せるために直接移動しなければならなかった消費者に、幅広い商品群を効率的に届けられる能力から生じます。そして、消費者にとってのこの利便性は、Eコマース企業によって生み出される環境の外部性を増やしています。

具体的には、Eコマースの取引量が増加するにつれて、エネルギーおよび水を大量に消費するハードウェアのストレージや処理基盤の必要性が高まっています。加えて、Eコマース産業が成長するにつれ、出荷量の増加は、輸送燃料使用による炭素排出量の増加をもたらし、そのことが営業費用の増加にもつながる可能性があります。その結果、競争力を維持するためには、企業は効率的な物流を築きあげなければなりません。さらに、こうした企業は、顧客から取得した大量の属性データや財務データを扱っています。このようなやり方で自由に営業ができるようにするためには、こうしたデータを犯罪者から守るとともに、自社の業務において顧客のデータをどのように使用しているのかについてはっきりしている必要があります。また、業界が拡大している一方、有能かつ技能のある人材が不足しており、これは、事業活動における課題となっています。

Eコマース業界のエンゲージメントテーマは、「環境」「社会的資本」「人的資本」「その他考慮事項」で構成されています。

「環境」については、「ハードウェアインフラのエネルギーと水のフットプリント」「物流と梱包の効率化」をエンゲージメントのテーマとして取り上げています。「ハードウェアインフラのエネルギーと水のフットプリント」では、「データセンターにおけるエネルギー使用の最適化や電源の途絶から守る戦略とはどのようなものか?」、「データセンター近辺で生じている水関連リスクとは何か?」、「こうしたリスクを軽減するためにどのような準備をしているか?」ということに焦点を当てています。「物流と梱包の効率化」については、「物流業務の効率性向上や輸送コストの削減に関する企業の戦略とはどのようなものか?」「製品や輸送時における梱包をできる限り効率的に利用するために、企業はどのような努力をしているのか?」という点を確認しています。

「社会的資本」では、「データ・セキュリティおよび不正行為防止」と「データ・プライバシー」に着目しています。「データ・セキュリティおよび不正行為防止」では、「データ・セキュリティの侵害を防止するため、企業はどのような努力をしているのか?そして、顧客の機密情報の漏えいを処理するため、どれほどの備えをしているのか?」、「クレジットカード詐欺を防止し、不正購入に関連するコストを削減するため、企業はどのような措置を講じているのか?」という点でエンゲージメントを図ろうとしています。「データ・プライバシー」に関しては、「第三者とのユーザーデータの収集および共有に関して、企業はどのようなアプローチをとっているのか?」、「顧客データを第三者と共有する際、潜在的な法的リスクや否定的な消費者の意見に対して、どのような備えが講じられているか?」という点に着目しています。

「人的資本」においては、「人材の採用、多様性の受け入れ、実績」について注目しており、「社員を定着させ、離職率の低減を図るため、どのような戦略をとっているのか?」、「技術者を採用する際に直面している課題とは何か?企業の技術職はビザ保有者にどの程度依存しているのか?」、「特に、経営層や技術職において、性別や人種、民族といった企業のダイバーシティを確保するためにどのような取組みを行っているのか?」という点についてエンゲージメントしようとしています。

「その他考慮事項」については、「顧客活動の測定(例:販売取引、検索数、月間アクティブユーザー、ページビュー、ユニークURL、出荷数など)」および「データ処理能力、アウトソーシングの割合」が挙げられています。