コラム

Vol.29

SASBの「Engagement Guide」のESGエンゲージメントを紹介する第8回目の今回は、「ヘルスケアセクター(Health Care)」から「医薬品(Pharmaceuticals)」関連企業とのエンゲージメントテーマについて取り上げます。

医薬品業界に属する企業は、医療用医薬品や一般用医薬品を開発・生産・上市しています。この業界は、現在、M&Aを通じた合従連衡の渦中にあります。世界的な健康志向と疾病による医薬品への需要が高まる中、競争を左右するのは各企業の新薬の研究開発力です。この業界が直面している持続可能性に関する大きな課題は、社会的操業許可(SLO: Social License to Operate)への依存、品質、手頃な価格での商品提供に対する懸念です。

医薬品業界のエンゲージメントテーマは、「環境」「社会資本」「人的資本」「リーダーシップ&ガバナンス」「その他考慮事項」で構成されています。

「環境」では、「エネルギー、水&廃棄物に関する効率性」をエンゲージメントテーマとして取り上げており、「自社のエネルギーコストや水ストレスのある地域における水需要へのエクスポージャーはどれくらいか?」そして、「企業は、生産過程において、どのように資源の節約や廃棄物削減を図っているのか?」と言った点に着目しています。

「社会資本」については、「医薬品アクセス」「治験参加者の安全性」「倫理的マーケティング」「無認可製薬」「医薬品の安全性&副作用」「購入可能性&適正価格」の6つをテーマとして取り上げています。「医薬品アクセス」に関しては、「医薬品の開発戦略や低・中所得国の患者のニーズを満たす価格政策はどのようなものか?」ということに焦点を当てています。「治験参加者の安全性」については、「臨床研究機関によって行われるものも含め、治験において優良臨床試験基準(GCP)への順守を保証するために、どのような方針がとられているか?」という点に注目しています。「倫理的マーケティング」については、「医薬品の適応外使用関連の規制や製品マーケティングに関する規制の順守を確保するために、どのような管理体制や方針がとられているか?」ということを取り上げています。「無認可製薬」では、「企業のどの製品が無認可製薬の対象になっているのか?」そして、「無認可を最小限に抑えることによって、患者の安全を守り、製品からの収益を確保するためにどのような手段を講じているのか?」という点でのエンゲージメントが求められています。「医薬品の安全性&副作用」では、「企業は、製品の品質と安全性をどのように管理しているのか?そして、安全性に関する情報を顧客にどのように周知徹底しているか?」という点が重要視されています。最後の「購入可能性&適正価格」については、「ジェネリック医薬品の開発を遅らせるリバース・ペイメントに対する企業の取組みはどのようなものか?そして、最近の裁判所の判決を受けて、こうした取組みはどのように進展しているか?」という点に焦点が当たっています。

「人的資本」においては、「採用、人材開発&人材定着」および「従業員の健康&安全」をテーマとしています。「採用、人材開発&人材定着」では、「優秀な人材を引き寄せ、採用し、定着させるために、企業はどのような戦略を採っているのか?」という点に注目しています。「従業員の健康&安全」については、「企業は、どのように従業員の健康と安全を確保し、強固な安全文化を促進しているのか?」という点に着目しています。

「リーダーシップ&ガバナンス」では、「汚職&賄賂」と「製造およびサプライチェーンの品質マネジメント」の2つをテーマとしています。「汚職&賄賂」では、「汚職への関与を削減・抑制し、違反の発生をなくすために、企業はどのような取組みを実施しているのか?」について着目しています。「製造およびサプライチェーンの品質マネジメント」については、「製造品質の確保やFDAによる強制措置が取られることを抑えるために、企業はどのような取組みを行っているのか?」についてのエンゲージメントが求められています。

「その他考慮事項」に関しては、「製造拠点数と外部委託率」および「製品化している医薬品数と開発中の医薬品数、開発パイプライン数」が挙げられます。