コラム

Vol.24

SASBの「Engagement Guide」のESGエンゲージメントを紹介する第3回目の今回は、前回同様、「消費財Ⅰセクター(Consumption ⅠSector)」から「アルコール飲料(Alcoholic Beverages)」関連企業とのエンゲージメントテーマについてです。

アルコール飲料セクターは、醸造酒や蒸留酒、そしてビールやワイン、リカーなど様々なアルコール飲料を製造している企業で構成されています。この業界に属する企業は、砂糖や大麦、トウモロコシなどの農作物を最終的にアルコール飲料へと変えていきます。

この業界の大企業と言われる会社は、数多くのブランドを有し、グローバルに事業を展開しています。また、業界内の垂直統合のレベルは、市場ごとの規制等により異なります。ビールを醸造している企業は、一般的に多様なマーケットに製品を供給するため、複数の製造設備を持っている一方、ワイン醸造業者や蒸留酒造業者は、長きにわたり生産してきた土地に本拠を構えていることが多いです。この業界については、商品の製造過程におけるエネルギー・水・梱包の適切な管理など慎重に扱うべきESG課題に直面しています。また、この業界は、無分別な飲酒に厳しく目を光らせている社会や規制当局の動向に対して、上手に舵取りをする必要があります。そうした動向は、業界が自由に操業する上での脅威となっているからです。加えてこの業界のサプライチェーンは、重要な投入物である原材料の供給を脅かす環境問題に晒されています。

そうしたアルコール飲料業界におけるエンゲージメントテーマとしては、「環境」「社会資本」「ビジネスモデルおよびイノベーション」「リーダーシップおよびガバナンス」そして「その他考慮事項」で構成されています。

「環境」に関しては、「エネルギー管理」と「水管理」が取り上げられており、まず、「エネルギー管理」では、具体的に「製造過程におけるエネルギー使用削減のための企業戦略とは何か?」そして「企業がどのようにエネルギーミックスをマネジメントして、エネルギーの途絶やエネルギー価格の上昇の影響を少なくしているのか?」といった点に着目しています。「水管理」については、「製品販売数量1単位あたりの水使用を減らすために採用した戦略とは何か?」といった点や、「水ストレスのある地域において、供給が途絶える可能性やコストの上昇を最小限に抑えるため、企業が採用している戦略とは何か?」をエンゲージメントの題材としています。

「社会資本」については、「適正飲酒の普及」をテーマとし、「企業は、責任あるアルコール摂取をどのように促進しているのか?」そして、「アルコール飲料の摂取に対する世間の目や当局による監視を回避するため、どのような取組みをしているのか?」、さらに「既存および新規市場を拡大していく際に、無分別なアルコール摂取に関係するリスクがあるのか否か?」といった点に着目しています。

「ビジネスモデルおよびイノベーション」では、「梱包のライフサイクル管理」がテーマとして掲げられ、「企業はどのように梱包の最適化を図っているのか?」そして、「どの程度コスト削減が実現できているのか?」について焦点を当てています。

「リーダーシップおよびガバナンス」では、「原料におけるサプライチェーンの環境および社会的影響」をテーマとし、「サプライチェーンにおける水リスクとは何か?そして、気候変動要因によって、原材料の供給が停止してしまう可能性はあるのか?」といった点や、「企業は農作物関連の原材料の供給が途絶するリスクをどのように管理しているのか?」、「サプライチェーンにおける主な社会的および(または)環境に関する外部性とは何か?そして、収穫高や生産高に影響をもたらす外部性をどのように予見しているのか?また、こうした外部性を低減するための戦略とは何か?」について企業とエンゲージすることを求めています。

「その他考慮事項」としては、「販売した製品の数量」「生産工場の数」「車両による輸送の総走行距離」の把握を求めています。