レポート

2021年12月-Vol.307

まとめ

今月のポイント

14日から米国でFOMC(連邦公開市場委員会)が開かれます。FRB(連邦準備理事会)はインフレは一時的と見ていましたがなかなか収まらず、FRB高官からは相次いでテーパリング(量的緩和縮小)の加速の可能性についての発言がありました。また11月末の議会証言で、パウエルFRB議長はインフレについて「一時的」との表現を取り下げ、テーパリング加速を議論することは適切と発言しました。そのため早ければ12月のFOMCでテーパリングの加速が決定されるとの見方が強まっていますが、足元で新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染拡大がみられているため、難しい判断が迫られています。

市場動向
国内債券 米国金利上昇に対する警戒感などから、国内金利には上昇圧力が掛かると予想する。但し、新たな変異ウイルスへの警戒から、金利の変動幅が大きくなることもあるだろう。
国内株式 来期に向けての企業業績に不透明感が強まっており、上値の重い展開を予想するものの、新たな変異ウイルスへの過度な警戒から急落した反動による上昇は見込まれよう。
外国債券 <米国>利上げ時期の前倒しに対する懸念などから、金利は上昇すると予想する。但し、新たな変異ウイルスの感染動向から、金利の変動幅が大きくなることには注意が必要である。
<欧州>インフレに対する警戒感などが金利上昇要因となる一方、経済活動の規制再導入の動きや新たな変異ウイルスへの警戒感などが金利低下要因となり、概ね横ばいを予想する。
外国株式 <米国>企業業績は増益基調が継続し、年末に向けての季節性もあることや、新たな変異ウイルスへの過度な警戒から下落した反動も見込まれ上昇を予想する。
<欧州>新型コロナウイルスの感染拡大が続いており、上値の重い展開が予想されるものの、企業業績が増益見通しとなっていることや新たな変異ウイルスへの過度な警戒から急落した反動による上昇が見込まれよう。
為替市場 日米金融政策のスタンスの違いや、米国長期金利の上昇に伴う日米金利差の拡大などから、ドルは対円で上昇すると予想する。但し、新たな変異ウイルスの感染動向から、変動幅が大きくなる可能性があると考える。新たな変異ウイルスに対する警戒感が高まる中、ECBの金融政策正常化は遅れる公算が高まっており、ユーロは対ドルで弱含みで推移すると予想する。

ポイント

14日から米国でFOMC(連邦公開市場委員会)が開かれます。FRB(連邦準備理事会)はインフレは一時的と見ていましたがなかなか収まらず、FRB高官からは相次いでテーパリング(量的緩和縮小)の加速の可能性についての発言がありました。また11月末の議会証言で、パウエルFRB議長はインフレについて「一時的」との表現を取り下げ、テーパリング加速を議論することは適切と発言しました。そのため早ければ12月のFOMCでテーパリングの加速が決定されるとの見方が強まっていますが、足元で新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染拡大がみられているため、難しい判断が迫られています。

今月の主なポイント
12/14 (米)FOMC(~15日)・・・上記参照
12/16 (欧)ECB(欧州中央銀行)理事会・・・
パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)終了およびその後の措置について議論
12/16 (英)金融政策委員会・・・利上げの可能性
12/16 (日)日銀金融政策決定会合(~17日)・・・資金繰り支援策の修正を議論か
FRBのバランスシート)

出所:FRB

国内債券

指標銘柄/新発10年国債
11月の国内債券市場

11月の債券市場は、上昇(金利は低下)した。
月初、10年債入札が低調な結果となったものの、海外金利の低下を受けて、0.05%程度まで低下する場面があった。その後、米国長期金利の上昇や、追加経済対策の大規模化に関する報道を受けて、0.08%台まで反発した。月末にかけては、新たな変異ウイルス(オミクロン株)に対する警戒感から、金利は大きく低下し、0.055%で終了した。

イールドカーブは、長期ゾーンの金利低下幅が大きくなった一方で、超長期ゾーンにおいては、国債増発懸念から残存年数40年近辺の金利は上昇し、ツイストスティープ化した。信用スプレッドは、小幅に拡大した。

12月の国内債券市場

12月の債券市場は、小幅下落(金利は上昇)すると予想する。経済活動の正常化期待や、インフレの高止まりなどを受けた米国金利上昇に対する警戒感から、国内金利にも上昇圧力が掛かると予想するものの、国内景気の回復は緩慢であることや、日銀は現行の緩和的な金融政策を維持することなどが、金利上昇を抑制すると考える。但し、変異ウイルス(オミクロン株)の感染動向から、金利の変動幅が大きくなることには注意が必要である。

12月の債券市場のポイントは、①米国金利の動向、②国内債券市場の需給動向、③新型コロナウイルスの感染動向と考える。

①<米国金利の動向>米国では、インフレ圧力が高まる中、今月発表される雇用統計や消費者物価指数などの経済指標の結果次第では、12月開催のFOMC(連邦公開市場委員会)において、テーパリング(量的緩和の縮小)ペースの加速が決定されるとの思惑が強まることもあるだろう。また、利上げの時期・ペースなどを巡り、金利の変動幅が大きくなる可能性も想定される。日銀は金融緩和姿勢を維持しているものの、国内金利に波及することには、注意が必要である。

②<国内債券市場の需給動向> 政府は、コロナ対策や景気刺激策を盛り込んだ、過去最大の35兆9千億円の補正予算案を閣議決定した。今年度補正予算に伴うカレンダーベースの国債発行額は据え置く方針となったものの、12月下旬の公表が見込まれている来年度の国債発行計画を巡る不透明感は依然として残っている。国債増発への懸念が高まった場合には、超長期ゾーンを中心に金利上昇圧力が掛かる展開も想定される。12月2日に10年債入札が予定されているが、11月時と同様に軟調な結果となった場合には、金利上昇が進む可能性もあるだろう。

③<新型コロナウイルスの感染動向>変異ウイルス(オミクロン株)への警戒感から、各国は入国制限を強化するなど感染対策を進めており、景気の下押し要因となる可能性がある。国内では、経済活動の正常化期待が高まる中、第6波への警戒感が高まりそうだ。今後、変異ウイルス(オミクロン株)への感染動向から、金利の変動幅が大きくなることには注意が必要である。

イールドカーブは、日銀による緩和的な金融政策から、中短期ゾーンの金利は低位で推移する一方、国債増発に対する警戒感から、超長期ゾーンには金利上昇圧力が掛かり、イールドカーブはスティープ化すると予想する。但し、金利上昇局面では投資家の需要が強まることも想定されることから、スティープ化の度合いは抑制されると考える。信用スプレッドは、投資家による利回り向上のための事業債投資や企業業績の回復などが信用スプレッドの縮小要因となるものの、縮小余地が限定的となる中、概ね横ばい圏で推移すると予想する。

国内株式

日経平均株価225種東証株価指数(TOPIX)
11月の国内株式市場

11月の株式市場は、衆院選の結果や経済対策などが好感される局面はあったものの、新たな変異ウイルス(オミクロン株)への警戒などから、日経平均株価で3.71%の下落となった。

自民党が衆院選で予想を上回る議席を確保したことが好感されて上昇して始まったが、その後はエネルギー価格の高騰や部品不足などによるサプライチェーンの混乱などが懸念されたこともあり、上値は重く軟調な展開が続いた。中旬には政府の経済対策への期待などから上昇する局面もあったが、下旬はパウエルFRB(連邦準備理事会)議長の再任に伴う早期利上げ観測の高まりから米国長期金利が上昇したことや、変異ウイルス(オミクロン株)への警戒などに加え、世界的な外国人の入国禁止が表明されたことに伴う経済活動の停滞への懸念などから、急落した。

業種別には電機、精密が上昇し、空運、鉄鋼、水産・農林などが下落した。

12月の国内株式市場

Go To トラベルなど経済活動の再開への期待はあるものの、中国景気の減速やエネルギー、物流コストの増加など、来期に向けての企業業績に不透明感が強まっている。上値の重い展開を予想するものの、変異ウイルス(オミクロン株)への過度な警戒から急落した反動による上昇は見込まれよう。

政府は11月の月例経済報告で、総括判断について「新型コロナウイルス感染症による厳しい状況が徐々に緩和されつつあるものの、持ち直しの動きに弱さがみられる」として一部表現を変更しつつも、前月から据え置いた。消費は緊急事態宣言の解除に伴う旅行や外食の支出などの改善から引き上げられる一方で、中国経済の減速や半導体不足による供給制約などから、輸出、生産は引き下げられている。回復し始めた消費については、Go To トラベルなど経済活動の再開による期待があるが、変異ウイルス(オミクロン株)の感染状況によっては、再び低迷するリスクも考えている。

企業業績は、電機、機械など外需関連セクターを中心に増収増益が継続しているが、回復のモメンタムが弱まっていることが留意点と見ている。7-9月期決算は、鉄道、空運など一部を除くと概ね好調であり、通期ガイダンスを上方修正する企業が多かったが、コンセンサスEPS予想についてはほぼ横ばい推移となっている。日本の交易条件(輸出物価指数を輸入物価指数で除した比率)が、エネルギー価格の高騰などを受けて一段と悪化していることなども、好決算にもかかわらず業績予想が切り上がらない理由だろう。

変異ウイルス(オミクロン株)の発生を受けて大きく下落した株価は、各国政府による迅速な対応などもあり反発すると予想しているものの、本格的な上昇に転じるには中国経済の回復などにより、来期に向けての企業業績の不透明感が払しょくされることが必要と見ている。

外国債券

米10年国債ドイツ10年国債
11月の米国債券市場

11月の米国の長期金利は低下した。上旬、FOMC(連邦公開市場委員会)で利上げに慎重な姿勢が示されたことなどから、1.4%台前半まで低下した後、市場予想を上回る消費者物価指数の発表や、パウエルFRB(連邦準備理事会)議長の再任報道などを受けて、下旬には1.6%台後半まで上昇する場面があった。月末にかけては、新たな変異ウイルス(オミクロン株)出現に関する警戒感などから再び低下に転じ、月末は1.4%台半ばとなった。イールドカーブは、短期ゾーンの金利は上昇する一方、長期・超長期ゾーンの金利を中心に低下し、フラット化した。

11月の欧州債券市場

11月の欧州(ドイツ)の長期金利は低下した。BOE(イングランド銀行)の利上げ見送りや、欧州における新型コロナウイルスの感染拡大などから、金利は低下基調で推移し、下旬に▲0.35%程度まで低下した。その後、ECB(欧州中央銀行)高官のタカ派的な発言を受けて、上昇する場面もあったものの、変異ウイルス(オミクロン株)出現に関する警戒感などから再び低下し、月末は▲0.3%台半ばとなった。周辺国国債とドイツ国債の利回り差は拡大した。

12月の米国債券市場

12月の米国の長期金利は、上昇を予想する。雇用市場の改善やインフレの高止まりに対する警戒感、利上げ時期の前倒しに対する懸念などから、金利には上昇圧力が掛かると予想するものの、相対的に利回りの高い米国債に対する投資需要などが金利上昇を抑制するだろう。引き続き、インフレ動向と利上げの時期・ペースの思惑のほか、変異ウイルス(オミクロン株)の感染動向から、金利の変動幅が大きくなることには注意が必要である。

12月の欧州債券市場

12月の欧州(ドイツ)の長期金利は、横ばいを予想する。インフレに対する警戒感などが金利上昇要因となる一方、経済活動の規制再導入の動きや変異ウイルス(オミクロン株)への警戒感、ECBの金融政策正常化が遅れるとの思惑などが金利低下要因となり、月間では概ね横ばい圏での推移を予想する。

外国株式

米国S&P500指数ダウ工業株30種平均ドイツDAX指数イギリスFT-SE(100種)指数香港ハンセン指数
11月の米国株式市場

11月の米国株式市場は、S&P500指数で0.83%の下落となった。好調な企業業績に加えて、新型コロナウイルス経口薬に関するポジティブな報道が好感され、一時史上最高値を更新した。月末にかけては、新たに見つかった変異ウイルス(オミクロン株)に対する懸念やパウエルFRB(連邦準備理事会)議長がテーパリング(量的緩和縮小)の早期終了を検討する可能性を示唆したことなどから、下落した。セクターでは、情報技術、一般消費財・サービスが上昇する一方、エネルギー、金融、コミュニケーション・サービスなどが下落した。

11月の欧州株式市場

11月の欧州株式市場は、好調な企業業績を背景に上昇基調で推移し、一時史上最高値を更新した。その後は、変異ウイルス(オミクロン株)に対する懸念や、米国の金融緩和政策の早期縮小に対する警戒感などから、下落した。国別では、スペイン、アイルランド、ベルギーなどを中心に全ての国が下落した。セクターでは、コミュニケーション・サービス、不動産が上昇する一方、エネルギー、金融、情報技術などが下落した。

11月の香港株式市場

11月の香港株式市場は、米中首脳会談や人民銀行による不動産業界に対する規制緩和報道が好感され、中旬にかけて上昇した。その後は、中国当局によるオンラインプラットフォームの規制強化などを背景に、一部の大手ハイテク企業の業績が冴えないものだったことや、変異ウイルス(オミクロン株)に対する警戒感などから、下落した。

12月の米国株式市場

12月の米国株式市場は、変異ウイルス(オミクロン株)の感染状況や持続的なインフレは警戒されるものの、堅調な個人消費や雇用の改善は継続するなど、景気は底堅く推移していることに加え、企業業績は増益基調が継続し、年末に向けての季節性もあることや、変異ウイルス(オミクロン株)への警戒から下落した反動も見込まれ、上昇を予想する。

12月の欧州株式市場

12月の欧州株式市場は、新型コロナウイルスの感染拡大が続いており、上値の重い展開が予想されるものの、企業業績は増益見通しとなっていることや、欧州復興基金による景気の下支えが期待されるほか、変異ウイルス(オミクロン株)への過度な警戒から急落した反動による上昇が見込まれよう。

12月の香港株式市場

12月の香港株式市場は、中国の景気減速や規制強化などは引続き懸念されるが、預金準備率の引き下げなど、追加金融緩和への期待もあることや、変異ウイルス(オミクロン株)への過度な警戒から急落した反動による上昇が見込まれよう。

為替動向

為替(ドル/円)為替(ドル/ユーロ)為替(ユーロ/円)
11月のドル/円相場

11月のドル/円相場は、ドル安円高となった。上旬に112円台後半まで下落した後、強い消費者物価指数やパウエルFRB(連邦準備理事会)議長の再任による米金利上昇を受けて、下旬に節目となる115円を突破する場面があった。月末にかけては、新たな変異ウイルス(オミクロン株)出現に関する警戒感などから円全面高の展開となり、月末は113円台半ばとなった。

11月のユーロ/ドル相場

11月のユーロ/ドル相場は、ユーロ安ドル高となった。欧州における新型コロナウイルスの感染拡大や、ECB(欧州中央銀行)による利上げ観測の後退などから、欧州金利が低下基調で推移する中、下旬に1.12ドル程度まで下落した。月末にかけては、欧米金利差の縮小からユーロが買い戻され、月末は1.12ドル台半ばとなった。

11月のユーロ/円相場

11月のユーロ/円相場は、ユーロ安円高となった。ドルに対して円は上昇し、ユーロは下落したため、ユーロ安円高となり、月末は127円台後半となった。

12月のドル/円相場

12月のドル/円相場は、上昇を予想する。米国景気の回復や日米金融政策のスタンスの違い、米国長期金利の上昇に伴う日米金利差の拡大などから、ドルは上昇すると予想する。但し、変異ウイルス(オミクロン株)の感染動向から、変動幅が大きくなることには注意が必要である。

12月のユーロ/ドル相場

12月のユーロ/ドル相場は、下落を予想する。変異ウイルス(オミクロン株)に対する警戒感が高まる中、ECBの金融政策正常化は遅れる公算が高まっており、金融緩和の縮小に着手するFRBとの金融政策のスタンスの違いなどから、ユーロは弱含みで推移すると予想する。

12月のユーロ/円相場

12月のユーロ/円相場は、下落を予想する。ドルは円・ユーロに対して上昇するが、ユーロに対する上昇幅の方が大きくなるため、ユーロ/円は小幅な下落を予想する。

虫眼鏡

『軍艦島』

長崎県にある「軍艦島」と呼ばれる観光スポットをご存知でしょうか?正式名称は「端島(はしま)」と言って横幅480m、縦幅160mという東京ドーム5個分程度の面積しかない極めて小さい島で、軍艦のような形をしているためにそのように呼ばれています。1960年頃にはその島に5,000人以上もの人が在住し、人口密度は東京都の9倍以上で世界一だったというデータがあります。小さな島の中に小学校や住宅、病院、公園、映画館、理髪店などの施設が存在、密集して人々が生活していたという、今ではちょっと信じられないスポットです。

石炭の発掘で成り立っていたのですが、主要エネルギーが石炭から石油に移るにつれて衰退し、1974年に炭鉱は閉じられて島民は全員島から離れることになったとのことです。現在は無人島ですが、日本初の鉄筋コンクリート造りの高層集合住宅など当時の建物などはそのまま残存しており、「廃墟スポット」として今では観光名所となっています。2015年には世界文化遺産として世界遺産に登録されたことで知名度も高まり、訪れる観光客も増えたようです。

「軍艦島上陸クルーズ」というクルーズ船による上陸ツアーもあり、私も2年ほど前に参加したことがあります。長崎市内の波止場から40分程度で島に到着しますが、当日は晴天にもかかわらず、あいにくの風の強さで上陸することができず、島の周囲を船で周遊するだけで終わってしまいました。ガイドさんによると、風向きや波の高さで上陸できないことは多々あり、また台風で島の防波堤や設備が破損するとしばらく上陸できなくなるとのことでした。上陸できるのは年間100日程度で、運にも左右されるようです。

上陸できなくて残念でしたが、それでも鉄筋コンクリートのアパートや学校・病院など老朽化による廃墟ぶりや、古ぼけた建物群を遠くからでもはっきり確認できました。それだけでも圧倒される迫力があり、確かに遠くから見る島は軍艦の形をしていました。

波止場近くに「軍艦島デジタルミュージアム」という軍艦島博物館のような場所があり、帰りにそこに立ち寄ってみました。様々な資料が展示してありましたが、それによると「軍艦島」という呼称は、大正時代に長崎の造船所で作られた日本海軍の「土佐」に島の形が似ていたので付けられたとのことです。もともと無人島でしたが、明治維新から間もない1869年頃に島の海底に石炭が埋蔵していることが発見され、採掘が始まりました。1890年に三菱が買い取り、その後出炭量の増加とともに人口が増えたため、居住地などを確保する必要から島の周りを6回にわたって埋め立てる形で拡張を繰り返し、面積が拡大していったとのことです。

ただ1960代中頃以降は出炭量が減少し、島民人口も減り、最終的に1974年1月の閉山時の人口は約2,200人だったという記録が残っています。そして同年4月には全島民が去って無人島化するという劇的に早い展開に至ったのです。

ミュージアムでは当時の生活ぶりを再現した部屋や建物、島内部のバーチャル映像を見ることができ、また元島民の説明を聞くこともできました。島には映画館やパチンコ店などがあり、商店や食堂などもそろっていて、生活は便利だったとのことです。またお祭りや運動会などのイベントも盛んで、住民全体が家族のような付き合いをしていてとても楽しかったと元島民の方は話していました。

唯一不便だったのは「水の確保」というのは、海に囲まれている島にしては意外でした。島には湧水がなく水の確保が困難で、人々は生活用水に海水を利用するなど節水を心掛けていたとのことです。また台風が来ると甚大な被害となり、護岸が決壊してメインストリートが川のような状態になることもしばしばあり、狭い島ならではの苦労もあったようです。

そんな軍艦島ですが、2021年7月にユネスコの世界遺産委員会が、軍艦島など「明治日本の産業革命遺産」を巡り、日本の対応に強い遺憾を表明したとのニュースが報道されました。詳細は割愛しますが、炭鉱労働者の過去の強制労働問題などの指摘があったことが理由のようです。なかなかデリケートな問題ですが、何らかの解決策を見出して世界遺産として残してほしいものです。

昨今は新型コロナの影響でクルーズそのものを運休することも多かったようで、また2021年9月の台風では一部のコンクリートの欠落などの被害が出たとのニュースも出ていました。老朽化も進んでいることから、「いずれは解体されるのではないか?」との見方も多くなっています。そうならないうちに再訪して、今度こそ上陸を果たしたいと思っている今日この頃です。クルーズに参加しても上陸できない人が多いせいか、何回もチャレンジする人も多いと聞きます。そのくらい人をひきつける何とも言えない魅力がある島だと個人的には感じています。

最近、お寿司の「軍艦巻き」を見るたびに軍艦島のことを思い出すくらいにまた行きたくなっています。緊急事態宣言も解除になりようやく旅行にも行きやすくなりましたが、珍しいものやレトロなものにご興味のある方、また長崎方面に行く機会がある方は、ぜひ一度訪問してみることをお勧めします。


まさに軍艦!(写真)

まさに軍艦!(写真)