レポート

2018年3月-Vol.262

まとめ

今月のポイント

今月20日より米国で開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)は、パウエルFRB(連邦準備理事会)議長が就任して最初のFOMCとなります。先月の同氏の下院議会証言では、「経済に対する個人的な見方は12月以降強まった」との発言もあり、利上げ加速観測が台頭しました。今会合では、多くの市場関係者の想定通り25BPの利上げが見込まれますが、FOMC参加者が入れ替わった後の経済・物価の見通しが上方修正されるのか、また、政策金利予測の分布(ドットチャート)がどうなるのかなどが注目されます。

市場動向
国内債券 日銀の金融政策により金利低下圧力が掛かるものの、0%程度の水準では投資家の需要が見込みづらく、0%程度からやや高止まりしやすいと予想する。
国内株式 米金利や為替相場の動向などにより当面は一進一退の動きが続くものの、バリュエーション面で割安となりつつあり、後半は緩やかな上昇を予想する。
外国債券 <米国>米国経済は拡大基調にあり、緩やかにインフレ期待は高まりやすくなっているため、金利は緩やかに上昇するだろう。
<欧州>ユーロ圏の景気は緩やかに回復しており、ECBは金融政策のフォワードガイダンスを修正する可能性があるため、金利は緩やかに上昇するだろう。
外国株式 <米国>急落からの戻りを試す局面の継続を予想する。法人税減税による業績拡大や海外資金還流による設備投資活発化などにより、売り込みにくい局面が続くだろう。
<欧州>企業業績の拡大期待が支える展開となり、米国並みの動きを予想する。そうした中、イタリアの総選挙の他、ユーロの一段高が懸念材料である。
為替市場 米国で利上げが予想される一方で、米政権による貿易赤字に対する言及がドルの上昇を抑える要因となるため、円は対ドルで横這い圏での推移になるだろう。ECBは3月にもフォワードガイダンスを修正する可能性があり、金融政策正常化の観測が高まりやすいため、ユーロは対ドルで上昇するだろう。
虫眼鏡

『貨物列車に魅せられて』

ポイント

今月20日より米国で開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)は、パウエルFRB(連邦準備理事会)議長が就任して最初のFOMCとなります。先月の同氏の下院議会証言では、「経済に対する個人的な見方は12月以降強まった」との発言もあり、利上げ加速観測が台頭しました。今会合では、多くの市場関係者の想定通り25BPの利上げが見込まれますが、FOMC参加者が入れ替わった後の経済・物価の見通しが上方修正されるのか、また、政策金利予測の分布(ドットチャート)がどうなるのかなどが注目されます。

今月の主なポイント
3/8 (欧)ECB(欧州中央銀行)理事会・・・フォワードガイダンスが修正されるか
日銀金融政策決定会合(9日まで)・・・現状維持が見込まれる
3/20 (米)FOMC(21日まで)・・・上記参照
3/22 (欧)EU首脳会議・・・英国のEU離脱に関する移行期間を合意できるか
FFレート先物

国内債券

指標銘柄/新発10年国債
2月の国内債券市場

2月の債券市場は上昇(金利は低下)した。10年国債利回りは、月初は海外長期金利の上昇から、0.10%近辺まで上昇したが、円高・株安進行を受け、リスク回避姿勢の強まりや日銀の国債買入れ減額観測後退から低下基調で推移し、0.045%で終了した。

月初、10年国債利回りは、海外長期金利の上昇を受け一時0.10%近辺まで上昇したものの、日銀が国債買入れ額を増額し、10年国債に対して指値オペを実施したことから低下に転じた。その後は、米国でインフレ懸念が高まったことや、財政収支の悪化観測から米国長期金利が上昇基調で推移したものの、国内では円高・株安が進行したことを受け、投資家のリスク回避姿勢が強まる中で日銀の国債買入れが下支えし、低下基調で推移した。その後も、為替が円高基調で推移し日銀が国債買入れ額を減額するとの観測が後退したことや、黒田日銀総裁の続投人事が国会に提示されたことを受け、投資家に買い安心感が広がり低下基調で推移し、0.045%に低下し終了した。

イールドカーブは、超長期ゾーンが良好な需給環境や、日銀の国債買入れ額減額観測後退から大幅に低下し、ブルフラット化した。

信用スプレッドは、概ね横這いで推移した。

3月の国内債券市場

3月の債券市場は、日銀によるイールドカーブ・コントロール政策から金利低下圧力がかかるものの、0%程度の水準では投資家の需要が見込みにくいことから、日銀の目標とする0%程度からやや高止まりしやすい展開を予想する。

3月の債券市場のポイントは、①円高と日銀の国債買入れ額②米国の金融政策と金利動向、③欧州の金融政策動向、と考える。

①<円高と日銀の国債買入れ額>日銀は1月に超長期ゾーンの国債買入れ額を減額した後、為替市場において円高が進んだことを警戒しているとみられる。日銀は為替相場の動向を注視しながら買い入れオペを運営する可能性があると見られ、円高が続く場合には、超長期ゾーンを中心に低下基調が続く可能性がありそうだ。

②<米国の金融政策と金利動向>米国では昨年に税制改革法案が成立したことや歳出上限が拡大したことを受け、今年の経済成長率が高まる見込みだ。また、景気拡大を受け、インフレ圧力も徐々に強まると見られ、FRB(連邦準備理事会)は年内に3回以上の利上げを行う可能性がある。そのため米国長期金利には上昇圧力がかかりやすく、2月初旬のように金融市場のボラティリティが高まる可能性には警戒が必要だ。

③<欧州の金融政策動向>ECB(欧州中央銀行)理事会は今年の早い時期に金融政策のフォワードガイダンスを修正すると表明しており、金融緩和策の解除が市場予想より早まる場合には、欧州金利の上昇圧力が高まり、国内債券市場にも影響があるだろう。

イールドカーブは、スティープ化とフラット化を繰り返す展開を予想する。

信用スプレッドは、概ね横這いで推移すると予想する。

国内株式

日経平均株価225種東証株価指数(TOPIX)
2月の国内株式市場

2月の株式市場は、後半には反発に転じたものの米長期金利の上昇や円高ドル安の進行などから調整局面が続き、日経平均株価は4.46%の下落となった。

上旬は、米雇用統計の発表をきっかけに米長期金利が急ピッチで上昇し、米株式市場が急落したことなどを受けて大きく下げ、その後も円高ドル安の進行などが嫌気されて続落となった。月央には米株式市場が連騰したことなどから反発し、下旬に入っても米長期金利の上昇や円高の進行が一服したことなどから持ち直しの動きが続いたものの、月末にはFRB(連邦準備理事会)新議長の議会証言後の米株式市場の下げを受け反落した。

業種別には、精密、医薬品が上昇する一方、海運、ゴム、鉱業などが下落した。

3月の国内株式市場

円高ドル安の進行などは懸念材料だが、19/3期の企業業績は増収増益が継続する見通しである。米金利、為替相場の動向により、当面は一進一退の動きが続くと見ているが、バリュエーション面では割安となりつつあることなどから、後半には緩やかに上昇していくと予想している。

2017年10-12月期の実質GDP(1次速報値)は年率換算で+0.5%となった。8四半期連続のプラス成長が続いている。輸出や設備投資が牽引し、夏場に天候不順などにより低調だった個人消費も持ち直しの動きとなっている。今後も回復が続くと予想しているが、本格化する春闘による賃上げ交渉の結果が、先行きを見る上で重要と考えている。また、10-12月期決算は上期からの増収増益トレンドが継続する結果となった。半導体市場や設備投資の拡大から電機、機械など加工組立関連が好調だったほか、市況高を反映し鉄鋼、非鉄金属など素材関連も回復が続き、内需関連についても情報サービスや小売業など幅広いセクターで業績が拡大している。19/3期についても、足元の円高などから成長率は鈍化するものの、グローバルな景気拡大を背景に増収増益が続くと予想している。

コーポレートガバナンスへの意識の向上から、増配と自社株買いを併せて発表する企業が見られるなど株主還元強化の動きも広がりつつある。自社株買いの取得枠設定は、上期は前年に比べ減少したものの下期に入り増加し、2017年度累計(2/28迄)では、前年の同期間をやや上回っている。一方で、自社株買いの実施については前年を下回っており、株式需給の面からも注目している。

リスク要因としては、円高ドル安の進行による企業業績への影響、米金利上昇に伴うドル建て債務を抱える新興国市場への影響、不動産投資の抑制策などによる想定以上の中国経済の減速、などが挙げられる。足元の為替水準が今後の企業業績に与えるインパクトについては限定的と見ているが、一段と円高が進むようだと業績の減速懸念が高まると考えている。

外国債券

米10年国債ドイツ10年国債
2月の米国債券市場

2月の米国の長期金利は上昇した。雇用統計での賃金の伸びを受けて2.9%台まで上昇したが、株急落によるリスクオフで2.6%台に低下した。CPIが予想を上振れると再び2.9%台まで上昇し、その後も2.9%近辺で揉み合いとなった。

イールドカーブは、月初はベアスティープとなったが、中旬以降は長期・超長期ゾーンが揉み合いとなった一方で、短期・中期ゾーンは金利が上昇したため、ベアフラット化した。

2月の欧州債券市場

2月の欧州(ドイツ)の長期金利はやや低下した。米金利に連れて上下した後、ドイツ連立交渉合意への期待や、イングランド銀行(BOE)の利上げ観測を受けて0.8%台まで上昇したが、買い需要が高まったことや予想を下回る経済指標を受け、0.6%台半ばまで低下した。

イタリアの総選挙を控えるなかで、周辺国国債とドイツ国債のスプレッドは概ね拡大する動きとなった。

3月の米国債券市場

3月の米国の長期金利は上昇を予想する。米国経済は拡大基調にあり、税制改革の影響や労働市場の逼迫から賃金の増加期待が高まり、インフレ期待も高まりやすくなっている。FRB(連邦準備理事会)も本年の物価上昇に対する見方を強めており、金利は緩やかに上昇するだろう。

3月の欧州債券市場

3月の欧州(ドイツ)の長期金利は上昇を予想する。ユーロ圏の景気は緩やかに回復していると考えられ、早ければ3月にもECB(欧州中央銀行)は金融政策のフォワードガイダンスを修正する可能性がある。ドイツやイタリアの政治リスクはあるものの、足元の景気回復はECBにとって金融政策の正常化を進めるチャンスと考えられ、12月理事会の議事内容に沿った金融政策運営を想定する。米金利の上昇圧力も相まって、欧州金利も緩やかに上昇するだろう。

外国株式

米国S&P500指数ダウ工業株30種平均ドイツDAX指数イギリスFT-SE(100種)指数香港ハンセン指数
2月の米国株式市場

2月の米国株式市場はS&P500指数で11ヵ月振りに3.89%の下落となった。連騰により高値警戒感が強まる中、月初の雇用統計で予想を上回る時間給などによりインフレ懸念が高まり、長期金利が3%に迫る上昇となりシステム的な売りも出て急落した。その後、長期金利が頭打ちとなり、割安感も意識されて反発したものの、上値は重い展開となった。セクターでは、原油価格の下落から急落したエネルギーをはじめ、生活必需品、電気通信サービスなどを中心に全セクターが下落した。

2月の欧州株式市場

2月の欧州株式市場は、米国発の株安に連れて急落した。その後も欧州政局や金融政策の不透明感が懸念され、反発するものの上値の重い展開を続けた。国別では、スペイン、ドイツ、アイルランドなどを中心に全ての国が下落した。セクターでは、不動産、生活必需品、電気通信サービスなどを中心に全セクターが売られた。

2月の香港株式市場

2月の香港株式市場は、6.21%の下落となった。上旬は旧正月を前に米国発の世界同時株安や、中国人民銀行の引き締め気味の金融調節などが影響し大幅に下落した。その後、米国市場や原油価格の反発に連れて下げ幅を縮小した。

3月の米国株式市場

3月の米国株式市場は、急落からの戻りを試す局面の継続を予想する。世界景気が拡大する状況下、法人税減税による業績拡大、レパトリ資金による設備投資活発化や自社株買いへの期待から、減税恩恵銘柄、情報技術セクターが牽引して売り込みにくい局面が続こう。パラリンピック終了後の地政学的リスク、FOMC(連邦公開市場委員会)、米国の貿易交渉の行方などが注目材料となるだろう。

3月の欧州株式市場

3月の欧州株式市場は、米国並みの動きを予想する。ファンダメンタルズの改善が続く中、企業業績の拡大期待が支える展開を予想する。イタリアの総選挙の他、今後の金融政策の方向性に関する金融当局者の発言を巡り、約3年振りの高値水準にあるユーロの一段高は懸念される。

3月の香港株式市場

3月の香港株式市場は、FOMCを前に長期金利動向が懸念される他、2月の製造業PMIなど中国主要経済指標の下振れを受けた景気減速懸念の高まりから上値の重い展開ながら、3月5日からの全人代に向けて政策期待などが下支えとなり、米国並みの動きを予想する。

為替動向

為替(ドル/円)為替(ドル/ユーロ)為替(ユーロ/円)
2月のドル/円相場

2月のドル/円相場は、円高ドル安となった。米株急落を受けたリスクオフの流れで円高基調となり、更に米国の通商政策への懸念から一時105円台半ばまで売られた。その後108円近くまで戻したが、円高基調は変わらず106円台半ばで引けた。

2月のユーロ/ドル相場

2月のユーロ/ドル相場は、ユーロ安ドル高となった。リスクオフの流れで1.22ドル近辺となった後、市場の落ち着きに合わせて1.25ドル台半ばまで買われたが、高値警戒感や予想を下回る経済指標を受けて売られ、1.22ドル台を割れて引けた。

2月のユーロ/円相場

2月のユーロ/円相場は、ユーロ安円高となった。月初137円台半ばまで買われたが、その後はリスクオフによる円高や、対ドルで円が堅調に推移する一方で、ユーロは軟調に推移したことから円高基調が続き、130円台前半で引けた。

3月のドル/円相場

3月のドル/円相場は横這いを予想する。米国で3月の利上げが想定されているため、ドルは堅調に推移する可能性がある。同時に、中間選挙を控える中でトランプ政権が米国の貿易赤字削減を主張し、日本に対する報復的な関税措置などに言及していることがドルの上昇を抑える要因となりやすい。そのため、強弱の要因が相殺され、横這い圏での推移となるだろう。

3月のユーロ/ドル相場

3月のユーロ/ドル相場は、上昇を予想する。ECB(欧州中央銀行)は3月にもフォワードガイダンスを修正する可能性があり、金融政策正常化の観測が高まりやすい。そのため、ユーロは上昇するだろう。

3月のユーロ/円相場

3月のユーロ/円相場は、上昇を予想する。ドル/円は横這い、ユーロ/ドルは上昇を予想するため、ユーロ/円は上昇するだろう。

虫眼鏡

「貨物列車に魅せられて」

たまの休みの日に、なんのあてもなくぶらりと近くの電車に乗りに行きます。ぼんやり小旅行するのは、癒されるひとときです。そんなときによく出かける路線には、たまに貨物列車が走っています。最初はただ眺めるだけだったのですが、今ではすっかりその姿に魅せられてしまいました。今日も一眼レフカメラと時刻表を持って早朝から貨物列車を撮りに出かけます。

貨物列車の魅力ってなんでしょうか。昔の国鉄時代の機関車がまだ現役で走っていることや、長い編成の重厚感、長距離を走っていることなどがすぐに思いつきます。今は一部の豪華イベント列車を除けば、寝台特急ブルートレインや地方のローカル線が廃止になってしまうなど、鉄道ファンにとっては車両や運用面での魅力が薄れる傾向にありますが、それがまだ残っている貨物列車には、実はディープなファンも多いようです。北海道や九州から夜通しで駆け抜けてきた長編成の貨物列車の姿は本当に美しく、お疲れ様と声をかけたくなります。

さて、リフレッシュ休暇を利用した平日の朝、満員電車に押し込められる通勤客を横目に、ひたすら貨物列車を追いかけるのはちょっとした優越感もあり気持ちのいいものです。いつも撮影している場所に行くと先客のおじさんがいました。カメラを片手に持ち、ビデオカメラを手すりに括り付けている様子からはかなり年季の入った鉄道ファンの方のようです。そして、「5764?」と聞かれ、お互いニヤリと顔を見合わせます。「5764」というのは都会では珍しくなった石炭輸送列車の列車番号のことですが、こういう時のニヤリは、いい大人が朝から電車の写真撮って・・・というちょっとした照れと、「5764」で通じる仲間と会えた嬉しさみたいなものが混じっている気がします。そして、まちがっても「今日は平日なのに会社は休みですか?」といった野暮なことはお互い聞きません。もちろん初対面ですが、こういう時はたいがい最近撮った電車の話か、昔の電車の話が自然に始まります。「昨日は大阪に行って、最後の○○系を撮ってきたよ。結構人が来て・・・」等々。私も雑誌で見て○○系の引退を知っていたので話は尽きませんし、なにせ羨ましい限りです。そんな会話を楽しむうち、あっという間に30分の待ち時間は過ぎていきます。

進行方向に線路のポイントが切り替わり、信号が青になり、遠くで踏切が鳴って、いよいよ列車が近づいてきます。まずはほっと一息といったところです。というのも貨物列車というのは突然運休するといったことがよくあるからです。私も最近分かったのですが、電車は乗る人がいないから来ないということは決してありませんが、貨物列車というのは運ぶもの(仕事)がなければ走らないことがあるのです。もちろんそのことは、駅でアナウンスされることもニュースになることもなく、残念なのはずっと待っていた鉄道ファンばかりです。そういうこともあってか、「来るかな」と待ちわびていると、遠くから踏切や列車の音が幻聴となって聞こえてきたりします。こういう症状の病名はよく分かりませんが、そろそろ病院で診てもらったほうがいいかもしれません。 「お先に失礼します」「お疲れ様です」と声を掛け合い、私は次の撮影場所に向かいました。到着したホームの先端で列車を待っていると、首からカメラをぶら下げた少年が近寄ってきて、「何か来るのですか?」と聞かれます。彼は鉄道ファンのようですが、おそらく「何か特別な列車や車両が来るのですか?」という意味でしょうから、「いや。貨物が来るのでね」と私は自嘲気味に答えます。聞けば、わざわざ名古屋から鉄道旅行に来て、今日は東京近郊の列車を一日中乗りまくるとのことです。私も学生の頃は同じようなことをよくしましたが、今では体力が持たないなと思いながら、「気をつけて」と声をかけ、少年の乗った電車を見送りました。

別のホームに移動すると、小学生くらいの息子さんと、まだ幼稚園かなという娘さんを連れたお母さんが電車を待っていました。ここは都会の工業地帯で、朝夕は工場に勤める人たちの通勤路線となりますが、昼間は鉄道ファンくらいしか乗る人がいませんので、とても珍しいお客様です。するとお母さんが「次の電車に乗っていくと、貨物列車が見られるのでしょうか。来ればいいのですけれど、貨物が来るまでこの子は何時間も待ってしまうので」と話しかけてきました。「だいじょうぶ。さっき確認しました。私も今から行くところです」と答えると、少年の眼が輝き出します。しかし、この歳で貨物列車に興味があるとは・・・。そして、さほど電車には興味はないだろうに楽しそうな娘さんに、それから何よりもそれに付き合うお母さんは本当に偉いな、などと思いながらガラガラの電車に乗って4人で出発です。

お目当ての貨物列車は無事、撮影することができました。そして私は約1時間後に来る別の列車の撮影を気長に待ちます。そうしているうちに、娘さんの「海の見える駅に行かないの?」という声が聞こえてきました。確かに、ここから20分ほどの海(運河)のすぐそばにある駅に行けば、近くにちょっとした公園もあり、行き交う船や、飛び跳ねる魚や、横浜の景色などが楽しめます。少し飽きてきたような娘さんはそちらのほうがいいだろうけど、息子さんは貨物大好きだし、お母さんはどうするかなと思っていると、次の電車に乗って向かうことを決めたようです。ここは、平日の昼間は2時間に1本しか電車の来ないただの「ローカル線」ですので、それは賢明な判断だと思います。3人が乗り、走り出した電車から手を振ってくれる子供たちに、私も大きく両手を振って見送りました。この駅は無人駅で、周りにはなぜかこの駅に住み着いているネコしかいませんし、一緒に貨物を撮りに来た仲間ですからね。自然と別れを惜しむ気持ちになりました。

しばらくすると、どこから現れたのかカメラを持ったおじさんがホームに上がって来ました。十数年ぶりに、始発電車に乗って撮影にやってきたとのことで、「今では都会で貨物列車は貴重だよね。○○支線にも昔は走っていたけど・・・」と。まさに同感です。雑草に埋もれている線路を見るたびに、ここを走っていた列車の姿を想像して、もっと前にどうして見に来なかったのかとの思いに駆られます。この駅では手際よく行われる機関車の入れ替え作業などが見られ、私は年に何回かここを訪れるのでその手順の一部始終を知っているのですが、あえて初めて来たようなふりをしました。せっかく早朝から楽しみにしているおじさんの感動を邪魔したくないですからね。

そろそろお昼になり、駅前で買ったパンをかじりながら線路沿いを歩いて次の撮影地に向かいます。2時間に1本の電車を待っていては効率が悪すぎるので、歩くことも多くなります。そして、運河を渡る橋を通過する列車をほぼ正面からとらえることのできる場所に着くと、既に3人の先客がいました。男女のペアに、スーツにネクタイ姿の男性です。とてもここはデートに来るような場所ではないし、男女のペアはそれぞれプロ並みのカメラを抱えているので雑誌の編集者かカメラマンのような気もします。3人は既にガードレールの上に立ち、金網のフェンス越しに狙いを定めていました。私はそこまでしなくてもいいかなと躊躇していると、サラリーマン氏の「来ましたよ。早く!」の声がします。慌ててよじ登ると、電化もされていない廃線にしか見えないような単線を、赤いディーゼル機関車が青緑色のタンク車を連ねて、ゆっくりと走ってくる姿が目に入ります。その姿は本当に美しく、来てよかったと思う瞬間です。皆、思い思いのタイミングでシャッターを切りました。

しかし、撮影はこれで終わりではありません。数百メートル先で入れ替え作業を行うこの列車を追いかけるのです。男女ペアは、停めてあった車に乗り込みました。最近は、自転車やバイクや車で撮影に来る人も珍しくありません。以前は、そこまでしなくてもいいのにと冷ややかに見ていたのですが、最近は素直にいいなと思うようになりました。そして、残されたサラリーマン氏と私は小走りに併走です。一緒に走りながら「トランプ政権になったからか、北朝鮮の影響か、最近は(この燃料輸送列車は)水曜日にも走っているみたいですね」と教えてくれます。通常は火・木が運転予定日ですが、いいことを聞きました。そして、我々4人は都会にいることをしばらく忘れるような時間を堪能したのでした。

しばらくするとサラリーマン氏が「もう電車の時間なので、行かないと。お疲れ様でした」と名残惜しそうに立ち去ります。その恰好からはもしかすると仕事の途中だったのかなと思いながら、自由な時間がまだ残っている気楽な立場の私は、心から「ご苦労様です」と頭を下げました。

さて、どこかでもう2~3本撮って帰ろうかなと思い、置いてあったリュックに手を伸ばしたその時です。腰に軽い違和感を覚えました。2年前に酷い腰痛になって以来、体の悲鳴には敏感になっており、今日は退散することに決めます。朝4時に起きて、今は午後3時になろうとしているので、もう十分満足です。撮影に行った日の最後は、一人で一杯飲んで帰るのが定番になっており、ビールを飲みながら、今日一日を振り返ります。カメラのディスプレイを眺めて今日の「収穫」を1枚1枚確認するのは、私にとってまさに至福の時です。