コラム

Vol.27

SASBの「Engagement Guide」のESGエンゲージメントを紹介する第6回目の今回は、前回同様、「消費財Ⅱセクター(Consumption ⅡSector)」から「食品小売・流通(Food Retailers & Distributors」関連企業とのエンゲージメントテーマについてです。

食品小売・流通業界は、食品、飲料、農作物の卸売や小売に関わる企業で構成されています。上場企業は主として北米で業務を行っていますが、商品に関しては世界中から調達しています。

消費者が食品を選ぶ際に直接的な影響を与える業界であることから、商品の品質、健康への影響、表示の適切性といった課題は、企業業績の強力な持続的牽引力となっています。さらに、サステナビリティに関する重要課題(気候変動、水不足、動物保護、公正な労働環境を含む)は、サプライチェーンを通じて当業界に影響を与えることから、商品の選別やサプライヤーの管理が重要になってきています。

こうした課題を持つ食品小売・流通業界におけるエンゲージメントテーマは、「環境」「社会資本」「人的資本」「リーダーシップおよびバナンス」そして「その他考慮事項」で構成されています。

「環境」に関しては、「冷却装置からの大気排出物」「エネルギーおよび燃費の管理」「食品廃棄物の管理」が取り上げられています。「冷却装置からの大気排出物」では、「企業は店舗や保有車両から放出される冷媒を削減するためにどのような行動を取っているのか?」「環境に有害な冷媒の使用を減らすために、企業はどのような体制を整えているのか?」と言った点に着目しています。「エネルギーおよび燃費の管理」に関しては、「小売店舗で使用するエネルギーを最小限に抑えるための企業戦略はどのようなものか?」「車両燃料の消費量を削減するため、企業はどのような方法を採用しているのか?そして、将来的に燃料を効率的に使用する戦略が変化することに企業は賛成しているか?」に注目しています。「食品廃棄物の管理」では、「食品廃棄物による利益損失を抑えるための企業の戦略とは何か?」「企業は、食品廃棄物に関連する環境面・社会面における外部不経済をどのように最小化しているのか?」が問われています。

「社会資本」については、「データ・セキュリティ」「食品安全」「体に良い商品・栄養のある商品」「商品に関する表示とマーケティング」が取り上げられています。「データ・セキュリティ」については、「データ・セキュリティが破られることを回避するために企業はどのような取組みを行っているのか?そして、顧客に関する機密情報の漏えいに対処するため、企業はどのような体制を整備しているのか?」という点に焦点が当てられています。「食品安全」については、「全ての小売店舗において、食品の安全性を確保するために企業はどのような管理体制を整えているのか?」「自社開発商品のリコールを削減するために企業はどのような管理体制を構築しているか?」という点が注目されています。「体に良い商品・栄養のある商品」については、「拡大途上にある健康食品市場を獲得するために、企業はどのような取組みを実施しているのか?」に着目しています。「商品に関する表示とマーケティング」については、「企業は、マーケティングや表示に関する規約を遵守するために何を行っているか?」「今後施行される可能性のあるGMO(遺伝子組み換え成分)表示に関する法規制により、企業はどのような影響を受けるのか?」という点をエンゲージメントで取り上げることを求めています。

「人的資本」については、「公正労働環境」が取り上げられており、「今後、最低賃金を調整することに対して企業はどのような配慮をしているか?」「企業は、労働組合員と議論する内容を想定しているか?」「全小売店舗の従業員を公平に処遇する戦略とは何か?」についてエンゲージすることを求められています。

「リーダーシップおよびバナンス」では、「サプライチェーンにおける環境および社会的影響に関する管理」をテーマとし、「気候変動のような環境または社会的リスクの影響を最も受ける事業分野はどれか?そして、こうしたリスクが長期的にどのように推移すると考え、かつ、それらを軽減しようとしているのか?」「拡大途上にある環境的に持続可能な商品に関する市場を獲得するために、企業はどのような取組みを実施しているのか?」「動物に対する倫理的取扱いを確保するため、サプライヤーとどのような対話を行っているのか?」という点に焦点が当てられています。

「その他考慮事項」としては、小売店舗・流通センターの総面積、貨物輸送量の把握を求めています。