コラム

Vol.22

今回から、事業会社向けのサステナビリティ情報開示基準を策定している非営利法人であるSustainability Accounting Standard Board (米国サステナビリティ会計基準審議会;以下、SASB)がとりまとめた「Engagement Guide」から、79の業種ごとのESGのエンゲージメントテーマについて、紹介していきたいと思います。SASBでは、各業種に関して「環境」、「社会資本」、「人的資本」、「ビジネスモデルおよびイノベーション」、「リーダーシップおよびガバナンス」、「その他の考慮事項」の六つの観点からエンゲージメントの在り方を示しています。

第1回目は、運輸セクター(Transportation Sector)から「自動車(Automobiles)」のエンゲージメントテーマについて紹介します。

まず「環境」についてですが、「資材の効率性とリサイクル」をエンゲージテーマとして取り上げています。そして、投資家に対して、「生産工程における資材の効率性の向上と廃棄物の削減をどのように測定しているのか?」、「自動車に適用される拡大生産者責任(EPR)*に関する諸法令の範囲拡大に対し、どのような対応をしているのか?」という点に注目して企業とエンゲージメントを行うことを推奨しています。

「社会資本」については、「製品の安全性」をテーマとして取り上げ、「顧客や規制当局による燃費が良く、安全性の高い小型自動車に対する需要の高まりにどのように対応しているのか?」、「安全性に関するクレームに対し、企業はどう迅速に対応しているのか?」、「リコールに対し、迅速かつ効率的に対応するための社内管理体制はどのようになっているのか?」という3つに焦点を当てています。

「人的資本」については、「労使関係」をテーマとして取り上げ、「労働者の大半に団体協約が適用されている場合、企業はストライキやロックアウトを回避するため、労働組合にどのような働きかけをしているのか?」、「労働者のほとんどが非組合員の場合、企業はどのように労働者とエンゲージメントを行い、雇用に関する課題を解決しているのか?」、「労働組合との紛争による操業停止などのリスクをどのように最小限に抑えているのか?」という点に着目しています。

「ビジネスモデルおよびイノベーション」については、「燃費と使用時の排出量」をテーマとし、「その市場における燃費と排出基準に関する規制がますます厳しくなる中、企業はどのようにそうした規制に対応しているのか?」、「低燃費車の市場が拡大する中、競合との差別化をどのように図っているのか?」という点に注目しています。

「リーダーシップおよびガバナンス」に関しては、「重要な原材料が供給停止になった場合の企業のエクスポージャー(経済的リスク)とは何か?」、「企業は、紛争鉱物の問題に関連する潜在的リスクをどのように管理監督しているのか?」という点を重要事項として提示しています。

「その他の考慮事項」では、上記の内容にエンゲージメントを行う上で、「自動車の生産台数」や「販売台数」といった定量情報を把握することも求めています。

以上のようなESGの内容について、SASBでは投資家と自動車会社がエンゲージメントを行うことを推奨しています。


*拡大生産者責任(EPR): 経済協力開発機構(OECD)が提唱した概念であり、「製品に対する生産者の物理的および(もしくは)経済的責任が製品ライフサイクルの使用後の段階にまで拡大される環境政策上の手法」と定義されている。