コラム

Vol.21

今回は、10月25日に開催された「CDP2016気候変動日本報告会」についてお話します。

気候変動に関するレポートの発行に合わせ、今年もイギリスの国際環境NGOであるCDPが東京証券取引所の東証ホールで日本報告会を開催しました。約280名が収容できる同ホールは、開催当日、人で埋め尽くされており、その関心の高さを伺い知ることができました。

CDPは2000年に設立された国際的非営利団体であり、気候変動をはじめ、水、森林といった自然資本に関する情報やデータを収集し、投資家や企業、政府機関に提供することをミッションとして活動しています。毎年、「CDP署名機関」である機関投資家に代わり、世界に上場している時価総額上位の企業に対し、気候変動・水・森林に関する標準化された質問書を送付し、回答を要請しています。2016年は、気候変動のプロジェクトに対し、827の機関投資家(運用資産総額100兆米ドル超)が参加しており、「ESG投資」における投資判断のツールとしては、環境の分野で最も影響力のある調査の1つと位置付けられています。

活動の一環として、CDPは、2003年から世界の主要企業を対象に、温室効果ガスの排出や気候変動による事業リスクおよび機会に関する情報を収集・分析し、その結果を全世界一斉に公表しています。2016年は、世界5000社以上を対象に調査を実施し、日本に関しては、FTSEジャパンインデックスに該当する企業を基本として選定した500社に質問書を送付しました。そこから得られた回答は、AからD-までの8段階で評価され、日本では、最高評価となるAリストに入った企業22社(ソニー、日産自動車、キリンホールディングスなど)を表彰しました。この表彰式には、22社中、過去最多の18社の役員が出席しており、気候変動をはじめとした環境への取組みに対する経営トップのコミットメントの強さが増していることを実感しました。

しかし、一方で、調査対象となった日本企業全体の動向を見ると、回答率は53%と約半数となっています。これは、グローバル500(世界の時価総額上位500社)の76%や英国FTSE350の63%、米国S&P500の65%などと比較して低い結果です。このような状況には、昨今の世界的なESG投資の普及やパリ協定発効に伴い、世界では環境対策の開示が資金調達を左右し、企業の重要な経営課題の1つに位置付けられている一方で、日本では、温暖化対策の新たな国際的枠組みである「パリ協定」への批准に出遅れるなど、政府の取組みが遅々として進まないことが影響していると考えられます。グローバルにビジネスを展開しているソニーや日産自動車などは、日本政府の動向よりも世界の潮流を意識した取組みを展開していますが、そうではない企業(環境への意識が低い企業)は、環境情報の開示等に消極的な姿勢を見せるといった二極化が生じているのです。

今回の報告会のパネルディスカッションに参加されていたりそな銀行の松原氏やQUICK ESG研究所の広瀬氏などは、「今後は、海外の機関投資家のみならず、国内の投資家もESG投資の構成要素の1つである『環境』に関して企業とのエンゲージメントを強めていく」と言及しており、企業の環境情報の開示はますます重要になっていくものと考えられます。したがって次年度以降は、日本企業のCDPへの回答率が向上することを期待したいと思います。