コラム

Vol.14

今回は、非財務情報(いわゆるESG情報)開示における昨今の動向についてお話します。

先日、環境省が平成27年度「環境情報開示基盤」整備事業成果報告会を開催しました。この環境情報開示基盤とは、平成25年度から3か年計画で環境省が運営事業を開始しているプロジェクトで、「環境情報開示フォーマット」及び「環境情報開示システム」から構成されるプラットフォームを構築することで、投資家に対して個別企業の環境情報を一元的・統一的に提供しようとするものです。この事業の目的は、環境情報に関する情報開示基盤を整備することで、環境に配慮した経営を行う企業が正しく評価され、そうした企業に資金が流れる社会システムを作り上げることにあります。

平成27年度は、この事業の最終年度であることから、環境情報開示システムの実践的な活用を促進するために、分析支援ツールおよびコミュニケーションツールが参加企業および金融機関等に新たに提供されました。特にコミュニケーションツールに関しては、この事業に参加している機関投資家が分析支援ツールを通じて入手した企業の環境情報について、インターネットのプラットフォームを通じて直接企業にコメントを送り、それに対し企業もコメントできる双方向のやり取りができるようになっています。機関投資家にとって、このコミュニケーションツールを利用することで企業との環境面の取組みに関する対話が可能となることから、日本版スチュワードシップコードで提言されている「建設的な対話」を効率的に行えることが期待できます。実際、ある自動車メーカーと機関投資家の間で、このツールを通じたコミュニケーションから実際の対話に発展したと言う事例も報告されているとのことです。

また、環境情報を発信する企業側に関しては、通常、投資家とコミュニケーションを取っているIR部門ではなく、ESG(またはCSR)関連部門がこのコミュニケーションツールの窓口となっています。こうした部署はこれまで投資家側の見解や関心のある点を聞く機会がほとんどありませんでしたが、コミュニケーションツールを通じて、直接投資家の意見を聞くことができ、さらにその先のコミュニケーションも可能になったことから、新たな気づきやモチベーションの向上につながったと評価しています。

ただ、一方で、今回のこの事業では、ESGの「E」(環境)の部分のみの情報開示となっていることから、投資家側としては、ESG情報を投資判断に活用するにあたって、ESGのどれか1つではなく、ESGの情報を横断的に取得したいと考えており、実際、報告会でも会場からそのような意見が挙げられていました。

平成26年にスチュワードシップコード、平成27年にコーポレートガバナンスコードがそれぞれスタートしたことで、非財務情報の開示が重要視され始めており、今回の「環境情報開示基盤」の整備事業についても、そうした流れに対応した取組みの一つであると言えます。この事業の成功を皮切りに、環境のみならず、ガバナンスや社会に関連した情報開示の基盤等が整備されるとともに、こうしたプラットフォームやツールの提供を通じて、今後ますます企業と投資家の対話が活発化することが期待されます。