富国生命投資顧問株式会社

レポート

2017年1月-Vol.248

まとめ

今月のポイント

今月20日に米国の第45代大統領にドナルド・トランプ氏が就任します。大統領選挙でトランプ氏の優勢が伝えられるとアジア・欧州市場では株式市場が急落しドル安となりましたが、当日の米国株式市場は上昇して引けました。その後は新興国市場での混乱はあったものの、先進国市場では金利、株式が大幅に上昇し、ドル高が進みました。これらはトランプ氏が提案していた政策のうち、大規模なインフラ投資や法人税の大幅引き下げ等への期待によるものと思われますが、実際に就任した際にどのような政策が提案されるかが注目されます。保護主義的な通商政策や、移民規制等、経済に悪影響を与える政策もこれまでに提案しており、これまでの提案通りとなるか、あるいは現実的な提案となるかが焦点となるでしょう。

市場動向
国内債券 日銀のイールドカーブをコントロールする政策から、10年国債利回りは低位で推移すると予想する。
国内株式 円安の進行に加え経済対策の実施などにより、来期に向け業績は本格的な拡大が見込まれることから堅調な相場展開を予想する。
外国債券 <米国>FRB(連邦準備理事会)が2017年の利上げ予測を2回から3回に上方修正したことや、トランプ次期大統領の政策期待から金利は上昇するだろう。
<欧州>米国の金利上昇に伴い上昇圧力がかかりやすいと見込むが、ECB(欧州中央銀行)が追加金融緩和の余地を強調しているため、上昇幅は小幅なものとなろう。
外国株式 <米国>トランプ大統領の就任を控えて、政策期待を織り込む動きが続き上昇するだろう。中旬から本格化する10-12月期の企業業績及び業績見通しの発表が注目される。
<欧州>トランプ次期大統領の政策を評価する米国市場動向に連れた動きが予想されるが、欧州金融機関への懸念は払拭されず、米国市場をアンダーパフォームするだろう。
為替市場 FRBは2017年に3回の利上げを行う可能性を示している一方、日銀は金融緩和継続を示しているため、ドルは対円で上昇するだろう。FRBの利上げ観測とECBの追加緩和観測やユーロ圏の政治的不透明要因からユーロは対ドルで下落するだろう。
虫眼鏡

『喫茶店での出来事』

ポイント

今月20日に米国の第45代大統領にドナルド・トランプ氏が就任します。大統領選挙でトランプ氏の優勢が伝えられるとアジア・欧州市場では株式市場が急落しドル安となりましたが、当日の米国株式市場は上昇して引けました。その後は新興国市場での混乱はあったものの、先進国市場では金利、株式が大幅に上昇し、ドル高が進みました。これらはトランプ氏が提案していた政策のうち、大規模なインフラ投資や法人税の大幅引き下げ等への期待によるものと思われますが、実際に就任した際にどのような政策が提案されるかが注目されます。保護主義的な通商政策や、移民規制等、経済に悪影響を与える政策もこれまでに提案しており、これまでの提案通りとなるか、あるいは現実的な提案となるかが焦点となるでしょう。

今月の主なポイント
1/20 (中)10-12月期GDP・・・6%台後半を維持できるか
(米)大統領就任式・・・上記参照
1/30 日銀金融政策決定会合(31日まで)
・・・展望レポートでの見通しに注目
1/31 (米)FOMC(連邦公開市場委員会)2月1日まで・・・現状維持が見込まれる
実質GDP成長率(前期比年率)

国内債券

指標銘柄/新発10年国債
12月の国内債券市場

12月の債券市場は小幅下落(金利は上昇)した。10年国債利回りは国債入札が相次ぎ低調な結果となったことや米国長期金利の上昇を受けて、一時0.10%まで上昇した。その後は、米国長期金利の上昇が一服したことや日銀の国債買入れが下支えし、0.04%まで低下し終了した。

10年債・30年債入札が低調な結果となったことや前月末のOPEC(石油輸出国機構)総会で減産が合意され原油高が進んだこと、円安・株高・米国長期金利の上昇基調が続いたことを受け、10年国債利回りは0.08%まで上昇した。その後、20年債入札を前に日銀が超長期ゾーンの買入れ額を増額したことや20年債入札の翌日に超長期ゾーンの国債買入れを事前に通知し金利上昇抑制姿勢を示したものの、米FOMC(連邦公開市場委員会)が予想以上にタカ派的な政策金利見通しを公表し米国長期金利が上昇したことを受け、一時0.10%まで上昇した。その後は、米国長期金利の上昇が一服したことや黒田日銀総裁が長期金利の操作目標引き上げは時期尚早と述べたことから投資家に買い安心感が広がり、金利は徐々に低下した。年末を控え流動性が低下する中、日銀の国債買入れが下支えし、0.04%で終了した。

イールドカーブは、超長期ゾーンの需給が悪化しベアスティープ化した。

信用スプレッドは、概ね横這いで推移した。

1月の国内債券市場

1月の債券市場は、日銀によるイールドカーブをコントロールする政策から金利低下圧力が掛かるものの、米国次期政権の政策期待による米国長期金利の上昇圧力を受け、日銀の目標とする0%程度からやや高止まりし易い展開を予想する。

1月の債券市場のポイントは、①日銀の国債買入れオペ、②米国の政治動向、③中国経済の動向と考える。

①(日銀の国債買入れオペ)日銀は10 年国債金利が0%程度で推移するように国債の買入れを行うとの金融市場調節方針を堅持している。海外市場などの影響を受けて金利が上下に振れる局面では、日銀がどのように買入れ額を調整し、指値オペが入るかに思惑は高まりやすい。オペのタイミングでは投資家の思惑が交錯し、金利の変動性が高まる可能性がある。

②(米国の政治動向)1月20日の米国新大統領就任式を控え、徐々に財政政策など政策の詳細が明らかになるだろう。政策の内容が市場の期待に満たない場合、期待の剥落から金融市場の調整圧力が高まりやすいことには注意が必要だ。また、政府関係者からドル高けん制発言が出される可能性もあり、ボラティリティは高まりやすいだろう。

③(中国経済の動向)すでに外貨準備残高の減少や不動産市場での規制強化を受けて、中国経済の先行き懸念が高まっている。そのため、中国発のリスクオフが進みやすくなっていることに注意が必要だ。

イールドカーブは、国債入札・日銀の国債買入れに対する投資家の思惑から小幅のスティープ化とフラット化を繰り返す展開を予想する。

信用スプレッドは、概ね横這いで推移すると予想する。

国内株式

日経平均株価225種東証株価指数(TOPIX)
12月の国内株式市場

12月の株式市場は、米国新政権誕生後の経済活性化への期待から米金利が上昇し円安・ドル高が一段と進行したことなどが好感され、日経平均株価は4.40%の上昇となった。

上旬はOPEC(石油輸出国機構)の減産合意を受けた原油相場の上昇や米雇用統計の改善により米利上げ観測が高まったことなどが好感され上昇した。中旬に入っても、FOMC(連邦公開市場委員会)が利上げを実施し17年の米利上げペースが加速するとの見方が広がり、米金利上昇に伴い日米金利差が拡大し円安・ドル高が一段と進行したことなどにより大きく上昇した。下旬に入ると、トルコなどでのテロ発生による地政学リスクの高まりに加え、相場上昇をけん引してきた外人投資家が休暇に入ったことなどから軟調な展開となり、月末にかけては、米経済指標が弱かったことや大手電機メーカーの巨額損失発生などが嫌気され下落した。

業種別には、石油・石炭、証券、水産・農林などが上昇する一方、その他製品、ゴム、パルプ・紙が下落した。

1月の国内株式市場

短期的には相場上昇の反動による調整局面も想定されるが、円安の進行に加え大規模な経済対策の実施などにより、来期に向けての業績は本格的な拡大が見込まれることから堅調な相場展開を予想する。

政府による12月の月例経済報告は、1年9ヵ月ぶりに景気認識の基調判断が上方修正された。海外経済の緩やかな回復から輸出が持ち直しの動きとなったこと、雇用・所得環境の改善により個人消費が上向きつつあることなどが基調判断に反映されている。今後は、大規模な経済対策を織り込んだ補正予算の執行に伴う公共投資の増加も景気の押上げ効果となると見込まれる。また、政府が取り組んでいる「働き方改革」では同一労働同一賃金などにより賃上げ環境の整備に着手しており、デフレ脱却のための施策として注目している。

企業業績については、足元の為替水準や内外での景気回復の動きなどから、7-9月期をボトムに回復が見込まれる。来期については、大規模な経済対策の実施や堅調な商品市況に加え、円安が収益を押し上げることなどから本格的な拡大を予想している。

米国大統領選挙後の相場急騰の反動から、短期的には軟調な動きとなる可能性も想定されるものの、円安の進行や景気回復による企業業績の拡大を背景にバリュエーション面での割高感はなく堅調な相場が続くと予想する。

リスク要因としては、米金利上昇に伴う新興国の通貨安などによる世界景気減速に加え、米国新政権誕生後に保護的な通商政策がとられる可能性、北朝鮮や中東・欧州情勢などの地政学的リスクの拡大などを考えている。

外国債券

米10年国債ドイツ10年国債
12月の米国債券市場

12月の米国の長期金利は上昇した。10年国債利回りは月初、11月の雇用統計で賃金の伸びが鈍化したことや、イタリアの政局を巡る混乱から2.3%台半ばまで低下する局面もあった。しかし8日のECB(欧州中央銀行)理事会で毎月の資産買入額の縮小が決まったことや、OPEC(石油輸出国機構)と非加盟国の主要産油国が協調減産で合意し、原油価格が高騰したことを受け2.5%台まで反転上昇した。更に市場の予想通り0.25%の利上げが決定された14日の米FOMC(連邦公開市場委員会)で、来年の政策金利見通しにおいて利上げ回数が2回から3回に増えたことから、およそ2年3ヵ月振りの水準となる2.6%台まで急騰した。下旬以降は、市場参加者が減り薄商いとなる中、ロシア駐トルコ大使が銃撃され死亡した事件や、ベルリンでのトラックによるテロ事件などリスクオフ要因で上値を抑えられ、概ね2.5%台半ば近辺で横這い推移となった。その後月末にかけて実施された国債入札が強い結果となったことを受け金利は低下し、2.4%台半ばで引けた。

12月の欧州債券市場

12月の欧州(ドイツ)の長期金利は低下した。月初はECBの国債買入れ策に関する思惑や、国民投票で憲法改正案が否決されたことによるイタリアの政局混乱などがあったものの、10年国債利回りは概ね0.3%台で推移した。8日のECB理事会では、市場の予想通り資産買入期間の終了時期は延長となったが、同時に毎月の資産買入額が縮小されたことを受けて0.4%台半ばまで上昇した。しかしドラギ総裁が量的金融緩和終了の議論はしていないと明言したこともあり、再び0.3%台まで低下した。その後も主要産油国による協調減産合意や、米FOMCの政策金利見通しで来年の利上げ回数が2回から3回に増えたことを受け一旦は上昇したものの、すぐに買い戻され低下基調となった。下旬にかけては、イタリアの大手銀行の救済に対する思惑から0.1%台半ばまで金利低下が加速し、月末は0.21%で引けた。

1月の米国債券市場

1月の米国の長期金利は上昇を予想する。米国経済は緩やかな景気回復を続けており、労働市場は完全雇用に近づいていると考えられる。トランプ次期大統領の政策期待や、FOMC(連邦公開市場委員会)で2017年の利上げ予測が3回に上方修正されたことから、金利には上昇圧力がかかりやすいだろう。一方、金利上昇、ドル高が進んだ場合、米国経済、特に住宅市場や企業業績の悪化懸念が高まりやすいことや、1月20日のトランプ氏の大統領正式就任後、政策が期待通りに進まず金利が反転、低下に転じる可能性には注意が必要となろう。

1月の欧州債券市場

1月の欧州(ドイツ)の長期金利は小幅上昇を予想する。ユーロ圏経済は概ね安定していると考えられるものの、不安定な政治動向の影響を受けて停滞懸念が高まる恐れがあることには注意が必要であろう。ECBは必要に応じて追加金融緩和を行うと強調してはいるが、ドイツからの反対も強く不透明である。そのためドイツの長期金利は、米国の金利上昇に伴い上昇圧力が掛かりやすいと見込むが、ECBが追加金融緩和の余地を強調している分、上昇幅は小幅に止まるだろう。

外国株式

米国S&P500指数ダウ工業株30種平均ドイツDAX指数イギリスFT-SE(100種)指数香港ハンセン指数
12月の米国株式市場

12月の米国株式市場は、S&P500指数で、1.82%と続伸した。前月同様に新政権の政策期待が維持される中、FOMC(連邦公開市場委員会)では予想通り1年振りの利上げが実施されたものの、2017年の利上げ見通しが2回から3回に引き上げられたことで高値圏での揉み合いとなった。セクターでは、電気通信サービス、公益、不動産等がアウトパフォームする一方、素材、一般消費財・サービスが下落した。

12月の欧州株式市場

12月の欧州株式市場は、月初のイタリア国民投票で憲法改正が否決されたものの、早期の解散総選挙が見送られたことや、注目されたECB(欧州中央銀行)の政策決定会合で追加的な量的緩和が決定されたことが好感され上昇した。その後も米国市場が新大統領の政策を期待して高値圏を維持したことや、イタリア銀行の救済策が明らかになるにつれて更に上昇した。国別では、イタリア、スペイン、ドイツなどが上昇した一方、ベルギー、スウェーデン、スイスなどがアンダーパフォームした。セクターでは全セクターが上昇し、特にエネルギー、一般消費財・サービス、金融などが買われ、一方、素材、生活必需品、資本財サービスなどがアンダーパフォームした。

12月の香港株式市場

12月の香港株式市場は、3.46%の下落となった。米国の長期金利の上昇が継続する中、中旬に開催のFOMCで2017年には市場の想定以上の利上げが予想され、アジア諸国からの資金流出懸念が高まり下落した。

1月の米国株式市場

1月の米国株式市場は、トランプ氏の大統領就任を20日に控えて、「アメリカ・ファースト」の政策内容の期待を織り込み堅調な展開が続こう。景気拡張的な政策は好材料である一方、中旬から本格化する10-12月期の企業業績内容に加え、継続するドル高、金利上昇下での今後の業績見通しに関するマネジメントからの発言内容が注目されよう。

1月の欧州株式市場

1月の欧州株式市場は、トランプ次期大統領の政策を評価する米国市場動向につれた動きが予想されるものの、欧州金融機関への懸念は払拭されず、米国市場をアンダーパフォームするだろう。

1月の香港株式市場

1月の香港株式市場は、欧米の景況感改善や原油高など好材料が多いものの、トランプ次期大統領の特に中国に対する通商政策などの不透明感を払拭できず一進一退の動きとなろう。

為替動向

為替(ドル/円)為替(ユーロ/円)
12月のドル/円相場

12月のドル/円相場は、引き続き円安ドル高となった。月初は前月の大幅なドル高に対する警戒感もあり114円前後での動きとなったが、8日のECB(欧州中央銀行)理事会で資産買入期間は延長されたものの、資産買入額が減額され欧州だけでなく米国の長期金利も上昇したことや、OPEC(石油輸出国機構)とロシアなどの主要産油国が協調減産で合意との報道で米株、米金利が上昇したことなどからドルが買われ115円を超えた。14日のFOMC(連邦公開市場委員会)では予想通り0.25%の利上げが実施されたが、同時に公表された先行きの予測で、2017年の利上げ回数が従来の2回から3回に上方修正されていたため、ドルはさらに買われ118円台半ばをつけた。その後は大きなイベントが予定されていなかったことや、年末の休暇もあって117円台を中心とした小動きとなった。月末にかけては、1月のトランプ次期大統領就任以降の政策に未だ不透明感があることから、ドルが調整し116円台で引けた。

12月のユーロ/円相場

12月のユーロ/円相場は、円安ユーロ高となった。月初は121円台で推移したが、4日に行われたイタリアの憲法改正を問う国民投票で反対派の優勢が伝えられると対ドルで1.05近辺、対円では119円割れまで売られた。しかし、反対派の勝利が確定し、レンツィ首相が辞意を表明すると徐々に買い戻され、対ドルでは1.08近辺、対円は一時123円台をつけた。8日のECB理事会の後はドルが買われ、円・ユーロともに売られたがユーロが円より売られたため、ユーロ/円は一時121円を割れた。14日のFOMC後は逆にユーロより円が売られたため、ユーロ/円は一時124円台となった。中旬以降は材料に乏しく122円台を中心とした動きが続いた。月末にかけてはユーロ・円ともにドルに対して買い戻され、123円近辺で引けた。

1月のドル/円相場

1月のドル/円相場は、上昇を予想する。FRB(連邦準備理事会)は2017年に3回の利上げを行う可能性を示している。一方、日銀は金融緩和を継続することを示している。基本的に為替レートは日米の金融政策の方向性の違いに影響されやすく、ドル高、円安が進みやすいだろう。2017年1月20日のトランプ氏の大統領正式就任後、選挙期間中に公約した政策が期待通りに進まず、先行きの景気期待が剥落しボラタイルな展開が想定されることには注意が必要だろう。

1月のユーロ/円相場

1月のユーロ/円相場は、概ね横這いを予想する。基調として、ユーロ/ドルはECBとFRBの金融政策の方向性の違いに影響されやすく、また、欧州では英国のEU離脱動向、各国の右派の台頭、そして銀行セクターへの懸念もあり、ユーロの下押し要因は多いと考えられる。但し、ドル/円は上昇を予想しているため、ユーロ/円は概ね横這いでの推移を予想する。2017年1月20日のトランプ氏の大統領正式就任後はドル/円と同様にボラタイルな展開が想定されることには注意が必要だろう。

虫眼鏡

「喫茶店での出来事」

ある日曜日の午後、暇つぶしに散歩をしていた私は喫茶店に入りました。時々無性にコーヒーが飲みたくなります。その店は、不惑を過ぎ天命を知る年齢も通過した私からみると、いかにも昔懐かしい面影のあるレトロな喫茶店でした。

コーヒーを注文して、ポケットに忍ばせていた文庫本を読み始めました。テーブルの数は20前後あったでしょうか。意外に広い店です。軽食を含む調理担当がひとり、ホールでは30代の男性がひとり、たった2人でてきぱきと注文をこなしていました。その日は何かイベントでもあったのでしょうか、ほとんどのテーブルは埋まっていたと思います。

近くには60歳前後でしょうか、男性がひとり座っていました。熱心に小銭を数えています。でもなにか様子がおかしい。私に店員を呼んでくれというようなゼスチャーをしていました。なぜ自分で言わないのだろうかと不審に思いつつ、やむなく忙しそうにしているホール担当の男性を呼びました。その店員が小銭を数えていた男性に「どうしました?」と声をかけると、どうやら具合が悪そうなのです。店員は救急車を呼びましょうかと尋ねると、その客は頷いたのです。とはいえ、店員は救急車を呼ぶことを躊躇していた様子でした。そのときは救急車を呼ぶほど具合が悪いとは思えなかったのは確かです。

店員は救急車を呼べないまま仕事を始めます。すると、その客はいきなり椅子から崩れ落ちてしまいました。彼は気を失うとともに、大きないびきをかき始めましたので、私は脳出血系の病気だと判断し、救急車を呼びました。その間どういう処置をしたら良いか指示を受けながら、救急車を待っていましたが、その時間の長いこと、長いこと。

その間、店員は注文をこなしたり、飲み物をテーブルに運んだり、会計をしたりしながら、合間に私を手伝ってくれました。喜ばしく思ったのは、店員だけでなく回りにいたお客さんも何人かが手伝ってくれたことです。

一方、とても残念な場面も目にしました。4人組の男性客が店員に、「何やってんだよ、早く注文したもの持って来いよ!」と怒鳴ったのです。店内は大騒ぎで何が起こったかは一目瞭然でしたので、こんなときに店員を怒鳴る神経が理解できませんでした。

この出来事を通して、色々な人がいることを改めて感じましたが、協力して救護に当たった人が何人かいたことは忘れることはできません。震災の後でも秩序を保った日本人ということが言われますが、これからも助け合える輪のなかに加わりたいと思っています。それ以来、避難訓練のときにはAEDの使い方を積極的に練習しています。

え、その救急車で運ばれた人はどうなったかって? 後日コーヒーを飲みにその店に行ったときに、一命をとりとめたとその時の店員さんからうかがったことを付け加えておきます。